自治体現場担当者のためのGovTech導入:IT部門とのスムーズな連携術
GovTech(ガブテック)の導入は、自治体の住民サービス向上や業務効率化を実現するための重要な手段として注目されています。しかし、実際に導入プロジェクトが進む中で、「ITのことはよく分からない」「IT部門とどう話せば良いのか」といった不安を感じる現場担当者の方もいらっしゃるかもしれません。
システムは日々の業務で利用する現場の方々にとって、使いやすく、本当に役立つものでなければ意味がありません。そして、そのためには現場の「生の声」が不可欠です。この記事では、自治体の現場担当者の方が、GovTech導入プロジェクトにおいて自信を持って主体的に関わり、IT部門と円滑に連携するためのヒントをご紹介します。
なぜGovTech導入に現場の視点が不可欠なのか
GovTech導入の目的は、住民サービスの向上や職員の業務負担軽減といった、具体的な課題を解決することにあります。これらの課題は、日々の窓口業務や内部事務に携わる現場の方々が最もよく理解されています。
システムは、現場の業務フローに合わせて構築される必要があります。机上の理論だけでシステムを設計しても、実際の運用に乗らなかったり、かえって業務を複雑にしてしまったりするリスクがあります。現場担当者が導入プロセスに関わることで、現実的な課題に基づいた、実効性の高いシステムを開発・導入することが可能になります。
また、システムが導入された後、日常的に利用するのは現場の職員です。使いにくいシステムでは、定着せず、期待した効果も得られません。現場の視点を取り入れることで、職員が抵抗なく使える、むしろ「便利になった」と感じられるシステムになる可能性が高まります。
GovTech導入プロセスにおける現場の具体的な役割
GovTech導入は、一般的に以下のような段階を経て進められます。それぞれの段階で、現場担当者には重要な役割があります。
1. 課題の洗い出しと目標設定
導入プロジェクトの初期段階では、「何のためにGovTechを導入するのか」という目的と、具体的な課題を明確にします。 ここでは、現場の「困っていること」「非効率だと感じていること」を具体的に洗い出すことが重要です。例えば、「特定の時間帯に窓口が非常に混雑する」「〇〇手続きの書類作成に時間がかかりすぎる」「住民からの電話問い合わせが多く、本来業務に集中できない」といった、具体的な状況を共有します。
可能であれば、「窓口の待ち時間を〇〇分削減する」「特定の手続きにかかる時間を〇〇%短縮する」のように、具体的な目標を設定することも効果的です。
2. 要件の整理と伝達
洗い出した課題を解決するために、システムに「どのような機能が必要か」という要件を整理します。この段階が、IT部門やベンダーとの連携において最も重要であり、同時に難しさを感じる方も多いかもしれません。
現場担当者は、ITの専門用語を使う必要はありません。「〇〇の手続きでは、住民の方に××の情報を入力してもらう必要があります」「この書類は必ず△△の項目が必要です」といったように、現在の業務プロセスやシステムに求めること(目的)を具体的に、かつ分かりやすく伝えることが大切です。
例えば、「オンラインで申請を受け付けたい」という要望であれば、「なぜオンラインにしたいのか(住民の利便性向上、窓口の負担軽減など)」「現在の申請プロセスはどうなっているのか」「オンラインで受け付ける場合、どのような情報を入力してもらう必要があるのか」「添付書類はどうするか」といった点を具体的に説明します。
IT部門はシステム構築の専門家ですが、自治体の細かな業務ルールや現場のリアルな状況は、現場の方でなければ分かりません。根気強く、現場の状況を伝える努力が、後々の手戻りを減らすことに繋がります。
3. システム評価・選定への関与
複数のシステムやベンダーが候補に挙がった際には、デモを見たり、実際に操作したりする機会が設けられることがあります。 この時に、現場担当者が積極的に参加し、「私たちの業務で本当に使えるか」「操作は難しくないか」「住民の方が使いやすいか」といった視点で評価することが非常に重要です。カタログ上の機能だけでなく、実際の利用シーンを想定して確認しましょう。
4. 導入準備とトレーニング
システム導入が決定したら、現場での受け入れ準備が進められます。新しいシステムに合わせた業務フローの見直しや、職員への周知・トレーニング計画への協力などを行います。 現場のリーダーは、他の職員の不安を軽減し、新しいシステムを円滑に受け入れるための橋渡し役となります。トレーニングに参加し、使い方を習得することも重要な役割です。
5. テストと検証
システムが完成に近づくと、実際に運用する前に「テスト」が行われます。現場担当者は、実際の業務シナリオに沿ってシステムを操作し、想定通りに動くか、エラーが発生しないかなどを確認します。 このテストで発見された問題点は、導入後のトラブルを防ぐために非常に価値があります。些細なことでも構いませんので、気づいた点や疑問点は積極的に報告しましょう。
IT部門との効果的なコミュニケーション術
IT部門とのコミュニケーションを円滑に進めるために、いくつかのポイントがあります。
- 分からないことは質問する: ITの専門用語が出てきたり、説明が難解だと感じたりした場合は、遠慮せずに「それは具体的にどういうことですか?」「私たちの業務にどう影響しますか?」と質問しましょう。IT部門も、現場に理解してもらうことが重要だと考えています。
- 「Why(なぜ)」を伝える: システムの機能要望を伝える際は、「〇〇の機能が欲しい」だけでなく、「なぜその機能が必要なのか」「それによって何が解決できるのか」という目的を伝えるように心がけましょう。目的が明確であれば、IT部門はより適切な技術的な解決策を提案しやすくなります。
- 議事録や記録を活用する: 会議の内容や決定事項を簡単なメモでも良いので記録しておくと、後々の確認に役立ちます。
- 定期的なコミュニケーション: プロジェクトの進捗に合わせて、IT部門と現場担当者が定期的に情報交換する場を設けることが理想的です。これにより、認識のずれを早期に発見し、解消することができます。
現場主導でGovTech導入を成功させた事例(架空の例)
ある市の市民課では、窓口での申請手続きが非常に煩雑で、特に特定の時間帯には住民の待ち時間が深刻な課題となっていました。市民課の主任は、この状況を改善するためGovTechの導入を検討。IT部門に相談する際、単に「システムを入れてほしい」と伝えるのではなく、まずは現場の職員と協力して「どの手続きに時間がかかっているか」「住民はどんな点に不満を感じているか」を詳細に調査・整理しました。
その上で、IT部門に対して「住民が自宅からオンラインで申請できるようにしたい」「窓口での入力項目を減らしたい」「電話問い合わせを減らすために、よくある質問に自動で答えられるようにしたい」といった具体的な目的と、それを実現するための現行業務の課題を丁寧に説明しました。
IT部門は、現場からの具体的な情報提供を受けて、オンライン申請システムとチャットボットの導入を提案。システム設計の段階では、市民課の担当者が頻繁にIT部門やベンダーと打ち合わせを行い、実際の申請画面のレイアウトや入力項目について、利用者(住民)と職員双方にとって最も使いやすい形になるよう具体的な要望を伝えました。時には技術的な制約で希望が叶わないこともありましたが、「なぜ難しいのか」の説明をしっかり受け、代替案を検討しました。
導入前のテスト運用では、市民課の職員全員が参加し、様々なパターンの申請を試みました。そこで発見された操作上の疑問点や分かりにくい点はすぐにIT部門にフィードバックし、改善に繋げました。
その結果、導入されたシステムは現場の業務に寄り添ったものとなり、職員は操作に戸惑うことなく利用を開始。住民からも「オンラインで申請できて便利になった」「待ち時間が減った」といった肯定的な声が多く聞かれました。チャットボットが住民からの簡単な問い合わせに対応することで、職員は本来業務に集中できるようになり、業務効率も向上しました。
この事例は、現場担当者が受け身になるのではなく、主体的に課題を発見し、IT部門と密に連携することで、GovTech導入を成功に導くことができることを示しています。
まとめ:GovTech導入は現場の力を活かす機会
GovTech導入は、決してIT部門やベンダー任せにするものではありません。現場の皆様が持つ日々の業務に関する知識や、住民の方々との直接的な関わりから得られる知見こそが、GovTechを成功させるための最大のカギとなります。
「ITは苦手だから」とためらう必要はありません。IT部門はシステムの専門家、現場は業務の専門家として、互いの知識や経験を尊重し、協力し合う姿勢が重要です。分からないことは臆せず質問し、現場で感じている課題や必要なことを具体的に伝えましょう。
GovTech導入は、現在の業務の非効率を解消し、職員自身の負担を軽減し、そして何より住民サービスの質を向上させるための前向きな取り組みです。この記事が、現場担当者の皆様がGovTech導入プロジェクトに自信を持って関わるための一助となれば幸いです。