GovTech導入プロジェクトで現場の「困った」をシステム要件に反映させる方法
GovTechを導入するプロジェクトにおいて、システムが実際に役立つものになるためには、現場の「生の声」、つまり日々の業務で感じている「困った」や「もっとこうなればいいのに」といった思いを正確に伝えることが非常に重要です。
システム導入の目的は、現場の課題を解決し、業務を効率化し、住民サービスを向上させることにあります。しかし、現場担当者が抱える具体的な「困った」が、システム開発側の理解する「システム要件」という形にうまく変換されず、期待していた効果が得られないケースも少なくありません。
ここでは、現場担当者の方が、日々の「困った」をどのように捉え、整理し、GovTech導入プロジェクトの中でどのようにシステム要件として反映させていくかについて、具体的なステップをご紹介します。
現場の「困った」を具体的に洗い出す
まず最初に行うべきは、漠然とした不満や課題を、具体的で誰にでもわかる形にすることです。
- いつ、誰が、何に「困って」いるか? 例えば、「窓口が混んで大変」という「困った」があったとします。これを具体化するには、「毎週火曜日の午前中は、特に引っ越しシーズン(3月〜4月)になると、10時〜12時の間に50人以上が同時に来庁し、待ち時間が2時間以上になることがある」というように、日時、対象者、具体的な状況、発生頻度、影響などを明確にします。
- どのような「困った」のパターンがあるか? 「手続きに必要な書類が多すぎる」「申請書のどこに何を書けばいいか住民がよく間違える」「問い合わせが多くて他の業務が進まない」など、業務プロセスの中の様々な場面で感じる「困った」をリストアップしてみましょう。職員だけでなく、住民からの声(「手続きが分かりにくい」「待ち時間が長い」など)も貴重な情報源です。
- 記録に残す習慣をつける 日々の業務の中で「これは困ったな」「これが改善されれば楽なのに」と感じたことを、メモ帳や簡単なスプレッドシートなどに記録しておく習慣をつけると良いでしょう。具体的な状況や感じたことをすぐに書き留めることで、後で振り返ったときに役立ちます。
「困った」がシステムで解決できるか、アイデアを膨らませる
洗い出した具体的な「困った」に対して、システムがどのような形で貢献できるかを考えてみます。ITの専門知識は必要ありません。「こんな機能があれば良いな」という素朴なアイデアで十分です。
例えば、 * 「待ち時間が長い」→ 窓口の混雑状況が事前に分かったり、オンラインで予約できたりするシステムがあれば良いな。 * 「申請書の記入ミスが多い」→ パソコンやスマホで入力すれば自動的にチェックしてくれる、あるいは入力例をすぐに見られるようなシステムがあれば良いな。 * 「問い合わせが多い」→ よくある質問とその回答を、住民が自分で調べられる仕組みがあれば良いな。 * 「同じ説明を何度もしている」→ 説明動画をシステムで見られるようにしたり、手続きの流れを分かりやすく表示したりできれば良いな。
このように、「困った」を起点に、「こうなったら嬉しい」という状態をイメージし、それを実現するための機能や仕組みのアイデアを考えます。現状の業務フローを思い浮かべながら、「この部分をシステムに任せられたら、もっと楽になる」「この情報がシステムで一元管理できたら便利になる」といった視点で考えてみてください。
システム要件として整理・言語化する
洗い出した「困った」と、それに対する解決策のアイデアを、GovTech導入プロジェクトに関わるIT部門やベンダーに伝わるように整理します。
- 何を解決したいのかを明確に伝える 単に「手続きを簡単にしてほしい」ではなく、「現状、手続きAには平均30分かかっているが、システム導入後には10分以内にしたい」「書類Bの誤記入率が20%あるが、システムで自動チェックすることで5%以下にしたい」というように、具体的な課題と、システム導入によって達成したい目標(何を、どのくらい改善したいか)を伝えます。
- 必要な機能を具体的に説明する 前項で考えた「こんな機能があれば良いな」というアイデアを具体的に説明します。「住民が自宅からインターネットを使って申請できる機能」「申請時に必要な添付書類を画面に表示してくれる機能」「予約状況をリアルタイムで確認できる機能」など、その機能が「何をできるものなのか」を明確に伝えます。専門用語を使う必要はありません。現場の言葉で「この画面で、こういう情報が見られて、こういうボタンを押したら、こうなるようにしたい」のように説明すれば、IT部門やベンダーがそれをシステム要件に落とし込んでくれます。
- 業務フローを示す 現在の業務がどのように行われているか、そしてシステム導入後にどのように変わることを想定しているかを、簡単な図(フローチャート)や箇条書きで示すことも有効です。「ステップ1で住民がこうして、ステップ2で職員がこれを確認して、ステップ3でシステムにこう入力する」といった流れを視覚的に示すことで、システム開発側は現場の状況をより正確に理解できます。
- 「非機能要件」についても考える システム要件には、「機能要件」(システムが何をするか)だけでなく、「非機能要件」(性能、セキュリティ、使いやすさなど)も重要です。例えば、「システムが頻繁に停止するのは困る」「個人情報が漏洩しないようにしっかり対策してほしい」「パソコン操作が苦手な職員でも直感的に使えるようにしてほしい」といった現場からの要望も、システム導入の重要な要件となります。これらも「困った」の視点から洗い出すことができます(例:「システムが遅くて住民を待たせて困る」→「処理速度を速くしてほしい」)。
IT部門やベンダーとのコミュニケーションのポイント
現場の「困った」をシステム要件に反映させるためには、IT部門やベンダーとの円滑なコミュニケーションが不可欠です。
- 遠慮せず質問する ITやシステムの専門的な話が出てきて分からないことがあれば、遠慮せず質問しましょう。「今の説明は、具体的にはどういうことですか?」「それは、私たちの業務のこの部分にどう影響しますか?」のように、現場の業務に引きつけて質問すると、理解が深まります。
- 「なぜ」その機能が必要なのかを伝える 単に「Aという機能が欲しい」と伝えるだけでなく、「なぜなら、現状のBという『困った』が起きているからです」というように、その機能が必要な背景や目的を伝えることが大切です。これにより、ベンダーは提案された機能の意図を深く理解し、より適切な方法を提案してくれる可能性が高まります。
- デモンストレーションや試用(トライアル)を活用する 提案されたシステムや機能を実際に見て、触ってみることは非常に有効です。画面の遷移や操作性、処理速度などが現場のイメージと合っているかを確認できます。もしイメージと違う点があれば、具体的な操作感を伝えながら改善を依頼できます。
まとめ:現場の「困った」は宝の山
日々の業務で感じる「困った」は、GovTech導入によって解決すべき重要な課題であり、システムをより良いものにするための貴重な情報源です。現場担当者の方が、この「困った」を具体的に捉え、システムにどう反映させたいかを考え、それをプロジェクトメンバーに正確に伝えることが、GovTech導入プロジェクト成功の鍵となります。
ITの専門知識がなくても心配ありません。現場で実際に業務を行っている方だけが知っている課題や、住民の方々が本当に求めているサービスへのヒントは、「困った」という形で現場に溢れています。その声に耳を傾け、プロジェクトで共有していくことから、現場にとって真に使いやすく、住民サービス向上に繋がるGovTechが生まれます。