GovTech導入で役立つIT基礎知識:現場担当者のための分かりやすい解説
はじめに:ITの基本を知ることで、GovTech導入はもっとスムーズに
自治体や企業で新しいGovTechシステムを導入する際、現場担当者の皆さんはIT部門やシステムベンダーとのやり取りが多く発生します。しかし、「専門用語が多くて分かりにくい」「自分の要望をうまく伝えられているか不安」といった声を聞くことがあります。
もちろん、皆さんがITの専門家になる必要はありません。しかし、導入プロセスに関わる上で、最低限のITに関する基礎知識があると、コミュニケーションが格段にスムーズになり、より現場のニーズに合ったシステム導入に繋がります。
この記事では、GovTech導入の際に現場担当者が知っておくと役立つITの基本的な考え方や用語について、専門知識がない方にも分かりやすいように解説します。
なぜ現場担当者にもIT基礎知識が必要なのか
GovTech導入プロジェクトにおいて、現場担当者はシステムの「利用者」としてだけでなく、システムの「要件を伝える役割」「テストをする役割」「定着を促す役割」など、非常に重要な立場を担います。
例えば、窓口業務のどのような課題を解決したいのか、住民にとってどのような手続きが理想なのか、といった具体的な要望は、現場で実際に業務を行っている皆さんでなければ分かりません。これらの要望をIT部門やベンダーに正確に伝えるためには、相手が理解しやすい言葉や考え方を知っておくことが有効です。
また、システムが完成した後も、期待通りに動くかテストしたり、使いこなせない住民の方をサポートしたりする場面で、システムの仕組みの基本を知っていると、より的確な対応が可能になります。
GovTech導入でよく耳にするIT用語を分かりやすく解説
ここでは、GovTech導入の際によく耳にするいくつかのIT用語を、比喩を交えながら分かりやすく解説します。
1. クラウド / オンプレミス
新しいシステムを導入する際、「クラウドですか?」「オンプレミスですか?」と聞かれることがあります。
- クラウド: インターネットを通じて提供されるサービスを利用するイメージです。例えるなら、自分の家に専用の書庫(サーバー)を持つのではなく、大きな図書館(クラウドサービス提供者のデータセンター)のスペースを借りて本(データ)を置いたり、そこで作業したりするようなものです。自分で書庫の管理やメンテナンスをする必要がありません。インターネットに繋がっていれば、どこからでもアクセスできます。
- オンプレミス: 自治体や企業の施設内に、自分たち専用のサーバーや通信機器を設置し、システムを運用するイメージです。例えるなら、自分の家に専用の書庫を建てて、本の保管から管理、メンテナンスまですべて自分で行うようなものです。初期費用がかかることや、管理の手間はありますが、自分たちのルールに合わせて自由にカスタマイズしやすいという側面があります。
GovTechでは、導入のしやすさやコスト、セキュリティの観点から、クラウドで提供されるサービスが増えています。
2. API(エーピーアイ)
APIは、「Application Programming Interface」の略です。異なるシステム同士が連携し、情報や機能をやり取りするための「窓口」のようなものです。
例えば、ある窓口システムで入力した住民情報を、別の手続きを行うシステムでも自動的に反映させたい場合、これらのシステムがAPIを通じて連携することで、情報の二重入力をなくすことができます。例えるなら、レストランで注文する際に、お客さん(システムA)がメニュー(API仕様)を見て、ウェイター(API)を通じて厨房(システムB)に料理(データや処理要求)を注文し、厨房はウェイターを通じて料理を提供する、といった連携の仕組みです。
GovTechで様々なシステム(住民情報システム、税務システム、オンライン申請システムなど)が連携するためには、APIが重要な役割を果たします。
3. SaaS(サース)
SaaSは、「Software as a Service」の略で、「サービスとしてのソフトウェア」という意味です。ソフトウェアをパソコンにインストールして使うのではなく、インターネット経由でサービスとして利用する形態です。
例えるなら、音楽CDを買って自宅のプレイヤーで聴く(オンプレミスやパッケージソフト)のではなく、音楽配信サービスに登録してスマートフォンなどでストリーミング再生するようなものです。常に最新の機能が使えたり、複数の端末からアクセスできたりといったメリットがあります。
多くのクラウド型のGovTechサービスはこのSaaS形式で提供されており、特別なインストール作業なく、ブラウザからアクセスして利用できます。
システム開発の基本的な流れと現場の関わり方
システム開発は、一般的にいくつかの段階を経て進められます。現場担当者は、特に最初の段階で重要な役割を担います。
- 企画・検討: どのような課題を解決したいか、システム導入の目的は何かを考えます。現場の非効率な点や困りごとを洗い出す、いわゆる「課題の見える化」がここにあたります。
- 要件定義: システムに「何をさせたいか」「どのような機能が必要か」を具体的に定義する最も重要な段階です。IT部門やベンダーとの打ち合わせを通じて、「現在の窓口業務の流れ」「住民からの申請内容」「必要な情報」「出力したい書類」などを具体的に伝えます。ここで現場の要望を正確に伝えることが、システムが期待通りに仕上がるかの鍵となります。
- 設計: 要件定義で決まった内容をもとに、システムの詳しい設計図を作成します。
- 開発: 設計図に基づいて、実際にシステムを構築する段階です。
- テスト: 開発されたシステムが、要件定義で決めた通りに動くかを確認します。現場担当者が実際にシステムを操作し、業務の流れに沿って問題がないかを確認する「受け入れテスト」は非常に重要です。
- 運用・保守: システム稼働後、日々の利用やメンテナンスを行います。
現場担当者は、1の「企画・検討」、2の「要件定義」、5の「テスト」、そして6の「運用・保守」の段階で深く関わることになります。特に要件定義とテストは、現場の業務をよく知る皆さんの協力が不可欠です。
IT部門やベンダーに現場の希望を伝えるコツ
ITの専門用語が分からなくても、現場の状況や希望を正確に伝えることは十分に可能です。以下の点を意識してみてください。
- 「何をしたいか」ではなく「何を困っているか」「どうなったら嬉しいか」を具体的に伝える: 「この作業に時間がかかっている」「住民の方からこの手続きが分かりにくいと言われる」「〇〇の情報を紙で手渡ししているのをやめたい」など、具体的な状況を説明する方が、IT部門やベンダーは解決策を考えやすくなります。
- 現在の業務プロセスを説明する: 今、どのように業務を進めているのか、どのような書類を使っているのか、どのような情報が必要なのかを説明することで、システムの設計担当者は業務を理解しやすくなります。
- 図や資料を使う: 言葉だけでは伝わりにくい場合、手書きの簡単な図や、現在使っている書類のサンプルなどを見せることも有効です。
- 「これはできる?」「こういうことは可能ですか?」と遠慮なく質問する: 分からないことはそのままにせず、正直に質問しましょう。ベンダーも、現場の理解度に合わせて丁寧に説明する努力をします。
- IT部門との連携を密にする: プロジェクトを進める上で、IT部門は現場とベンダーの橋渡し役となります。現場の要望や不安は、IT部門に相談し、協力してベンダーに伝えるようにしましょう。
まとめ
GovTech導入におけるITは、決して現場担当者にとって難しい、理解できないものではありません。ここでご紹介したようなITの基本的な考え方や用語を知っているだけでも、システム導入の各プロセスで、IT部門やベンダーとのコミュニケーションが円滑になり、現場のニーズをより的確にシステムに反映させることが期待できます。
システムはあくまで、日々の業務や住民サービスをより良くするための「道具」です。その道具が現場で本当に役立つものとなるよう、ぜひITへの苦手意識を乗り越え、積極的に導入プロセスに関わっていただければと思います。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の製品やサービスを推奨するものではありません。