GovTech導入、IT部門との「言葉の壁」をなくすには?現場担当者のためのコミュニケーション術
GovTechの導入プロジェクトを進める際、現場の担当者の方々がIT部門やシステムベンダーとのコミュニケーションに難しさを感じることが少なくありません。「言いたいことがうまく伝わらない」「相手の説明が専門的すぎて分からない」といった「言葉の壁」に直面することも多いのではないでしょうか。
現場の業務に精通している皆さんと、システムの専門家であるIT部門やベンダーでは、普段使っている言葉や関心を持つポイントが異なります。この違いから生じる言葉の壁は、プロジェクトの進行を遅らせたり、求めるシステムと異なるものができてしまったりする原因となることもあります。
しかし、この言葉の壁は、お互いの立場を理解し、少しの工夫をすることで乗り越えることが可能です。この記事では、GovTech導入においてIT部門との間に生じがちな言葉の壁の原因を探り、現場担当者の方が自信を持ってコミュニケーションを取るための具体的なヒントをご紹介します。
GovTech導入で生じがちな「言葉の壁」とは
GovTechの導入は、現在の業務をより良くするための取り組みです。現場の皆さんからは「窓口業務の待ち時間を減らしたい」「申請の手続きをもっと簡単にしたい」「書類の作成をもっと効率化したい」といった具体的な要望が出されます。一方、IT部門やベンダーは、これらの要望をシステムとして実現するために、どのような技術を使うか、既存システムとどう連携させるか、セキュリティをどう確保するかといった、システムの専門的な視点で検討を進めます。
この過程で、以下のような場面で言葉の壁を感じることがあります。
- 要望を伝えるとき: 「あの手続きが面倒なので何とかしたい」という現場の具体的な困りごとを、IT部門に伝わる「システム要件」として表現するのが難しいと感じる。
- システムの説明を聞くとき: IT部門から「クラウド」「API連携」「SaaS」「オンプレミス」といった専門用語が出てきて、システムがどのように動くのかイメージしにくい。
- 仕様や進捗を確認するとき: 「この機能は○○な仕組みで実現します」と説明されても、それが実際の窓口業務でどのように役立つのか、自分の仕事にどう関係するのかがピンとこない。
- テストや確認をするとき: 「バグ報告をお願いします」と言われても、何が「バグ」なのか、どのような情報を伝えればシステム改善につながるのかが分からない。
このように、現場とIT部門では、問題意識や使う言葉、求める情報の種類が異なるため、意図せず言葉の壁が生じてしまうのです。
言葉の壁を乗り越えるためのコミュニケーション術
では、現場担当者として、この言葉の壁をどのように乗り越えればよいのでしょうか。いくつかの具体的なコミュニケーション術をご紹介します。
1. 「現場の言葉」で、具体的かつ丁寧に伝える
IT部門はシステムの専門家ですが、皆さんの日々の業務の詳細や、住民の方が窓口でどのようなことに困っているかまでは知りません。皆さんが業務のプロとして、現場の状況を分かりやすく伝えることが重要です。
- 現状の「困りごと」を具体的に整理する: 「〇〇の申請書を作成するのに、今までは△△というシステムから情報を探して、□□という書類を手書きで作成していました。これが一日あたり××件あり、一つあたり△△分かかるため、他の業務の時間を圧迫しています」のように、具体的な作業内容、時間、件数などを数値や事例を交えて説明します。
- 「どうなりたいか」を具体的に伝える: 「システムが導入されたら、申請書作成にかかる時間を半分にしたい」「住民の方が自宅から手続きを完了できるようにしたい」など、実現したい目標や理想の状態を明確に伝えます。ただ「効率化したい」と伝えるよりも、具体的なイメージが共有しやすくなります。
- 業務の流れを「見える化」する: 現在の業務フローを簡単な図にしたり、使っている書類や画面の写真を準備したりするのも有効です。「この段階でこの情報が必要です」「ここで住民の方を待たせてしまっています」など、視覚的な情報を交えると、IT部門はシステムのどの部分で課題を解決すべきかを理解しやすくなります。
- 「なぜそれが必要なのか」を伝える: 単に「こういう機能がほしい」と伝えるだけでなく、「なぜその機能が必要なのか」「それが実現すると誰がどのように助かるのか(住民、職員など)」という背景や目的を伝えることで、IT部門は要望の本質を理解し、より適切な解決策を提案しやすくなります。
2. IT部門の言葉を理解しようと努め、積極的に質問する
IT部門が使う専門用語が分からないのは当然のことです。分からないままにせず、臆せず質問することが、誤解を防ぐ第一歩です。
- 分からない言葉はその場で質問する: 会議中や打ち合わせ中に分からない専門用語が出てきたら、「すみません、〇〇とは具体的にどのような意味ですか?」と遠慮せずに質問しましょう。「たとえば、私たちが普段使っている△△のようなものですか?」と、自分の知っていることに例えて尋ねるのも有効です。
- 確認を怠らない: 説明を聞いた後、「今の説明は、つまり〇〇ということですね?」と、自分の言葉で言い換えて確認することで、認識のずれがないかを確認できます。
- 簡単なIT基礎知識を学ぶ姿勢を持つ: IT部門が準備した資料(用語集など)に目を通したり、基本的なITの仕組みについて解説している情報に触れたりすることも、相手の言葉を理解する助けになります。全てを理解する必要はありませんが、知ろうとする姿勢はコミュニケーションを円滑にします。
- システムの目的や全体像に関心を持つ: 自分が関わる部分だけでなく、システム全体の目的や、他の部分がどのように連携しているかに関心を持つと、IT部門からの説明も理解しやすくなります。
3. 定期的な対話と信頼関係の構築を大切にする
言葉の壁は、単に言葉の違いだけでなく、お互いの立場や役割への理解不足からも生じます。定期的な対話を通じて信頼関係を築くことが重要です。
- 定期的な会議や進捗共有の場を持つ: プロジェクトの初期段階だけでなく、開発中、テスト中など、各段階で定期的に情報共有と認識合わせを行う場を設けます。ここで、懸念事項や不安なことを率直に伝え合える関係を目指します。
- 議事録などで確認事項を共有する: 打ち合わせでの決定事項や確認事項は、議事録として文書に残し、関係者全員で共有・確認します。これにより、「言ったはず」「聞いたはず」といった行き違いを防ぎます。
- 相手の立場や制約を理解する: IT部門には、予算や開発期間、既存システムの制約など、さまざまな事情があります。現場の要望を伝える際には、これらの制約も考慮し、優先順位をつけたり、代替案を検討したりする柔軟な姿勢も大切です。
- 感謝や協力の気持ちを伝える: プロジェクトは現場とIT部門が協力して進めるものです。IT部門の努力や協力に対して感謝の気持ちを伝えたり、現場で協力できることがあれば積極的に申し出たりすることで、より良い協力関係を築くことができます。
まとめ
GovTech導入におけるIT部門との言葉の壁は、異なる専門性を持つ者同士が協力する上で起こり得る自然なことです。しかし、この壁を放置すると、プロジェクトの成功を妨げる要因となりかねません。
現場の担当者として、自らの業務を具体的かつ分かりやすく伝え、IT部門の言葉を理解しようと努め、分からないことは積極的に質問すること。そして、定期的な対話を通じて信頼関係を築くことが、言葉の壁を乗り越えるための鍵となります。
GovTech導入は、住民サービスの向上と職員の業務効率化を実現するための重要なステップです。現場の皆さんがIT部門と円滑なコミュニケーションを図ることで、より現場のニーズに合った、使いやすいシステムが実現し、プロジェクトを成功に導くことができるでしょう。