GovTech導入前:現場の課題を「見える化」し整理するポイント
なぜGovTech導入前に現場の課題整理が重要なのか
GovTechの導入は、自治体や企業の業務効率化、住民サービスの向上に大きく貢献する可能性を秘めています。しかし、単に最新のシステムを導入すれば全てが解決するわけではありません。どのような課題を解決したいのか、その目的が明確になっていないと、期待した効果が得られないばかりか、かえって現場の負担が増えることもあります。
特に、日々の業務に直接関わる現場の職員の皆様は、現在のやり方の「困りごと」や「非効率な点」を最もよく把握しています。これらの現場の声をしっかりと拾い上げ、課題を整理することは、GovTech導入を成功させるための最初の、そして最も重要なステップと言えます。
現場の「困りごと」をリストアップする
課題整理の出発点は、現場で実際に働いている方々が日々感じている「困りごと」や「改善したい点」を率直に書き出すことです。
具体的には、以下のような方法で現場の声を収集できます。
- 職員へのアンケートやヒアリング: 日常業務で時間がかかると感じる作業、煩雑だと感じる手続き、住民からの問い合わせが多い内容などを自由に記述してもらいます。少人数の部署であれば、率直な意見交換のためのミーティングも有効です。
- 日報や業務記録の見直し: どのような業務にどれくらいの時間がかかっているか、どのようなトラブルが発生しているかなど、客観的な記録から課題のヒントを得ます。
- 住民からの声の収集: 窓口や電話、アンケートなどで寄せられる住民の方からの意見や要望も、サービスの課題を特定する上で非常に参考になります。
この段階では、「これはシステムでは解決できないかもしれない」といった判断は一旦保留し、まずは思いつく限りの「困りごと」を具体的にリストアップすることが大切です。「〇〇の申請手続きに、平均30分かかっている」「月末の〇〇処理に、毎回半日を要している」「住民の方から『〇〇の手続きが分かりにくい』という声をよく聞く」など、できる限り具体的に記述すると、後工程で役立ちます。
課題を分類し、「見える化」する
リストアップした「困りごと」は、そのままでは全体像が掴みにくいかもしれません。次に、これらの課題を種類ごとに分類し、「見える化」することを試みます。
例えば、以下のような分類が考えられます。
- 待ち時間関連: 窓口での待ち時間、電話の保留時間など
- 手続きの煩雑さ関連: 申請書類の多さ、押印の多さ、複数窓口への誘導など
- 情報共有関連: 必要な情報が各部署に分散している、システム間で連携がないなど
- 書類・データ作成関連: 手書きでの書類作成、同じ内容を複数システムに入力など
- 問い合わせ対応関連: FAQが整備されていない、担当者が不明など
これらの課題を、付箋に一つずつ書いてホワイトボードに貼り付けたり、共有可能なドキュメントや表計算ソフトにまとめたりすることで、「見える化」できます。分類することで、どの分野に課題が多いのか、特に深刻な課題は何かなどが分かりやすくなります。多くの職員が同じ課題を感じている場合は、それは優先的に取り組むべき課題である可能性が高いでしょう。
課題の根本原因を探る
課題が「見える化」できたら、それぞれの「困りごと」が「なぜ」発生しているのか、その根本原因を探るステップに進みます。単に「時間がかかる」というだけでなく、なぜ時間がかかるのかを掘り下げます。
例えば、「〇〇手続きに時間がかかる」という課題の原因として、以下のようなものが考えられます。
- 使用しているシステムが古く、操作に手間がかかる
- 必要な情報が他の部署のシステムにあり、手作業で確認が必要
- 手続きに必要な書類が多く、確認作業に時間を要する
- 書類に不備があった場合の修正プロセスが煩雑
- 職員によって対応方法が異なり、標準化されていない
このように根本原因を分析することで、解決策としてどのようなアプローチが必要なのかが見えてきます。この段階でIT部門の方に相談し、技術的な観点からの意見を聞くことも有効です。
解決によって得られる効果を考える
課題の根本原因が把握できたら、その課題が解決した場合にどのような効果が得られるかを具体的にイメージしてみましょう。これは、GovTech導入によって何を実現したいのか、という目的に直結します。
例えば、
- 待ち時間が〇分短縮され、住民の方の満足度が向上する
- 書類作成時間が半分になり、職員の他の業務に時間を充てられる
- 申請手続きがオンラインでできるようになり、住民の方がいつでもどこでも手続きできる
- 部署間の情報共有がスムーズになり、職員の確認作業が減る
- マニュアル整備により、誰でも同じ品質で対応できるようになる
といった具合です。具体的な数値で表せる場合は数値目標を設定することも有効ですが、「住民の方の利便性が高まる」「職員の心理的な負担が減る」といった定性的な効果も重要な目標となります。これらの効果を具体的にイメージすることで、GovTech導入の意義を関係者と共有しやすくなります。
整理した課題をIT部門やベンダーに伝える準備
これまでのステップで整理した課題リスト、その根本原因、そして解決によって得られる効果のイメージは、IT部門や外部のシステムベンダーに要望を伝える際の貴重な情報となります。
重要なのは、システムに搭載してほしい「機能」を一方的に伝えるのではなく、「どのような課題を解決したいのか」「課題が解決するとどうなるのか」という課題ベースで伝えることです。
例えば、「申請システムがほしい」と伝えるよりも、「現在、申請手続きに時間がかかり、住民の方をお待たせしているという課題がある。これを解決するために、オンラインで申請を受け付けられるようにしたい。そうすれば、住民の方の待ち時間がなくなり、職員の入力作業も減るはずだ」というように伝えると、IT部門やベンダーは、貴方の部署の状況や本当に困っていることを深く理解し、より適切なGovTechソリューションや機能について提案しやすくなります。
まとめ:現場の課題整理はGovTech導入の羅針盤
GovTech導入前の現場における課題整理は、成功への道筋を示す羅針盤のようなものです。現場担当者の皆様が日々の業務で感じている「困りごと」を丁寧に拾い上げ、なぜそれが起きているのか、解決したらどうなるのかを明確にすることは、導入するシステムが本当に現場のニーズに合ったものになるために不可欠です。
ITやシステムの専門知識が少なくても心配ありません。最も重要なのは、現場で起きている現実を正確に把握し、それを関係者に分かりやすく伝えることです。この課題整理のプロセスを通じて、現場の皆様がGovTech導入プロジェクトの重要な担い手となり、より良い住民サービスと働きやすい環境の実現に貢献できると信じています。