GovTech導入後の効果測定:現場担当者のための具体的な指標(KPI)とステップ
GovTech導入、その効果をどう「見える化」するか?
GovTech(ガブテック)の導入は、自治体や企業の業務を効率化し、住民サービスの質を高めるための重要な取り組みです。多くの期待を持ってシステム導入を進めた後、「本当に効果は出ているのだろうか?」「具体的に何がどれだけ変わったのだろう?」と感じることはありませんか。特に窓口業務など、現場の最前線で働く担当者の方々にとって、導入による日々の変化は肌で感じられる一方、その効果を客観的に捉え、周囲に伝えることの難しさを感じるかもしれません。
GovTech導入の効果測定は、単に数字を集めることではありません。これは、導入が成功したのかを確認し、さらなる改善点を見つけ、今後のデジタル化推進に必要な理解と協力を得るための重要なステップです。専門的な知識がなくても、現場担当者の視点から取り組める効果測定の方法があります。
この記事では、GovTech導入後に現場担当者の方が、どのような指標(KPI)に注目し、どのように測定を進めれば良いのか、具体的なステップとともに分かりやすくご紹介します。
なぜGovTech導入の効果測定が必要なのでしょうか?
システムを導入して終わり、ではなく、その効果を測定することは、いくつかの重要な意味を持っています。
1. 現場の努力と成果の「見える化」
新しいシステム導入への対応や、操作の習熟には現場担当者の多大な努力が必要です。効果測定によって具体的な成果が数字として示されれば、現場で働く方々のモチベーション向上につながります。自分たちの取り組みが、住民サービス向上や業務効率化にどれだけ貢献しているのかを実感できるようになります。
2. さらなる改善点の特定
効果測定を通じて、期待通りの効果が出ている部分、そうでない部分が明確になります。これにより、「この手続きはまだ時間がかかっている」「この機能はあまり使われていないようだ」といった具体的な課題点が見えてきます。これらの情報は、システムや業務プロセスのさらなる改善のために非常に役立ちます。
3. 関係者への報告と理解の促進
導入効果を具体的なデータで示すことは、IT部門や上層部への報告、さらには他の部署への展開を検討する上で不可欠です。漠然とした「良くなった気がする」ではなく、「〇〇が△△%削減された」「利用者満足度が□□点向上した」と示すことで、導入の成功を分かりやすく伝え、今後の取り組みへの理解と協力を得やすくなります。
4. 住民への説明責任
自治体の場合、税金を使って導入されたシステムの効果を住民に説明することも重要です。効果測定の結果は、住民サービスの向上にどのように貢献しているかを具体的に示す根拠となります。
現場担当者が注目すべき具体的な指標(KPI)
では、具体的にどのような指標に注目すれば良いのでしょうか。専門的すぎず、現場の日常業務からデータを収集しやすい、いくつかのKPIをご紹介します。
住民サービスに関するKPI
- 窓口待ち時間(平均・最大):
- GovTech導入により、窓口での手続きがスムーズになったかを確認できます。整理券システムなどのデータを活用したり、一定期間の計測を行ったりすることで把握できます。
- 「導入前は平均20分だった待ち時間が、導入後は10分になった」といった形で効果を示すことができます。
- 手続き完了までの時間:
- 申請受付から交付、あるいは許可が下りるまでの総時間の短縮を確認します。
- 「以前は申請から許可まで平均5営業日かかっていたものが、オンライン化により3営業日に短縮された」などの効果が見られます。
- オンライン申請利用率:
- 窓口に来庁せず、オンラインで手続きを完了する住民の割合です。デジタル化による利便性向上を示す直接的な指標です。
- 「特定の申請におけるオンライン利用率が導入前の5%から、導入後は25%に増加した」といった成果を測ります。
- 住民アンケートによる満足度:
- システム利用後の住民の満足度をアンケートで収集します。「手続きの分かりやすさ」「待ち時間の長さ」「職員の対応」など、具体的な項目で評価を得ることで、サービス全体の質の変化を捉えられます。
- 「システム導入後に実施したアンケートで、手続きの分かりやすさに関する評価が向上した」などの結果が得られます。
- 問い合わせ件数の変化:
- 電話、窓口、メールなど、様々な経路での問い合わせ件数、特に手続きに関する問い合わせが減少したかを確認します。手続きが簡単・分かりやすくなった証拠となり得ます。
業務効率に関するKPI
- 一職員あたりの処理件数:
- 同じ時間内で、一人の職員が処理できる申請や手続きの件数です。システム化による処理能力の向上を示します。
- 手続きあたりの平均処理時間:
- 一つの申請や手続きを処理するのにかかる時間の短縮を確認します。入力作業の自動化や書類確認の効率化などによる効果を測ります。
- ペーパーレス化率:
- 紙で取り扱う書類の量が減ったかを確認します。印刷枚数の削減や、電子データでの管理が進んだ割合などを計測します。
- 「窓口で受け付ける申請書の印刷枚数が〇〇%削減された」などの具体的な成果を示せます。
- 残業時間の変化:
- 特にシステムに関わる業務を担当する職員の残業時間がどのように変化したかを確認します。業務効率化による負担軽減を示す指標となり得ます。
- エラー率・手戻り率:
- 申請内容の不備や入力ミス、それに伴う住民への確認やデータの修正といった手戻りが減ったかを確認します。システムによる入力支援機能や自動チェック機能の効果を示します。
これらのKPIの中から、導入したGovTechシステムが最も影響を与えると考えられる項目をいくつか選び、測定の対象とすることが現実的です。
効果測定のステップ
専門的な知識がなくても、現場担当者の視点から効果測定を進めるための基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:測定対象と目標の決定
まず、導入したシステムがどの業務に影響を与えているかを明確にします。そして、前述のようなKPIの中から、そのシステム導入によって改善が期待される項目を選びます。例えば、オンライン申請システムであれば「オンライン申請利用率」や「窓口待ち時間」、業務システムであれば「手続きあたりの平均処理時間」などが考えられます。
次に、これらのKPIについて「どれくらい改善したいか」という目標値を設定できると良いでしょう。例えば「窓口待ち時間を平均10分以内にする」「オンライン申請利用率を30%に引き上げる」といった具体的な数値目標です。IT部門や上層部と相談しながら設定できると理想的です。
ステップ2:現状把握(ベースライン測定)
システム導入前に、選定したKPIの現状値を把握しておくことが非常に重要です。これが「ベースライン」となり、導入後に測定した値と比較することで、どの程度変化があったのかを客観的に評価できます。過去の業務データ、手作業での時間計測、職員へのヒアリング、小規模なアンケートなどで、導入前の状況をできるだけ正確に記録しておきましょう。
ステップ3:測定ツールの活用とデータの収集
システム導入後は、設定したKPIを定期的に測定します。測定には、システムに搭載されたログ機能や統計機能、窓口の整理券システムから出力されるデータ、職員による日々の業務記録、住民アンケートツールなど、様々なツールや方法が考えられます。
- システムからのデータ: 可能であれば、システムが出力する業務量や処理時間に関するデータをIT部門に依頼して入手します。
- 手作業による計測: 特定の業務にかかる時間を、担当者がストップウォッチなどで計ってみます。抜き打ちでなく、一定期間継続して行うとより正確です。
- 業務日誌・記録: 職員が日々の業務の中で、処理件数や発生したエラーなどを記録します。
- アンケート: 住民や職員に、システム利用に関する満足度や改善点を聞くアンケートを実施します。
どのような方法でデータを収集するかを事前に決め、担当者間で共有しておくことが大切です。
ステップ4:定期的な測定と記録
効果測定は一度行えば終わりではありません。システムが定着するまでの期間や、その後の継続的な効果を把握するために、定期的に(例えば月に一度、または四半期に一度)データを収集し、記録します。収集したデータは、表計算ソフトなどを使って分かりやすくまとめておくと、後の分析や報告に役立ちます。
ステップ5:結果の分析と評価
収集したデータを、導入前のベースラインや設定した目標値と比較し、分析を行います。
- KPIはどのように変化したか?
- 目標値は達成できたか、あるいは近づいているか?
- 期待通り効果が出ている点はどこか?
- 逆に、あまり効果が見られない点、あるいは悪化している点はどこか?
- なぜそのような結果になったのか?(システムの使い方、業務フロー、住民の慣れなど要因を考察)
この分析には、現場で実際にシステムを利用している職員の肌感覚や、住民からの声(感謝の言葉、苦情、改善要望など)も合わせて考慮すると、より多角的に評価できます。
効果測定の結果をどう活かすか
測定・分析した結果は、様々な形で活用できます。
- 現場職員へのフィードバック: 測定結果を現場職員と共有し、努力の成果を伝えたり、改善の必要性を話し合ったりします。
- IT部門・ベンダーとの連携: 効果が不十分な点や課題として見つかった点について、IT部門やシステムベンダーに相談し、システム改修や設定変更、操作研修の要望などを伝えます。
- 上層部への報告: 導入の成果を具体的に報告し、デジタル化推進への理解を深めてもらいます。これは、今後の予算確保や新たなシステム導入の提案を行う上での重要な根拠となります。
- 住民への情報提供: Webサイトや広報誌などで、GovTech導入によって住民サービスがどのように改善されたかを具体的に伝えることで、住民からの信頼を得たり、新しいサービスの利用促進につなげたりできます。
現場担当者として取り組むためのヒント
効果測定は難しそう、と感じるかもしれませんが、いくつかの点を意識することで、現場主導で取り組むことが可能です。
- 小さく始める: 全てのKPIを同時に測定する必要はありません。まずは最も重要と思われる1~2個のKPIに絞って測定してみましょう。
- 日常業務の中に組み込む: 特別の時間を設けるのではなく、日々の業務記録の中でデータ収集の一部を行うなど、無理のない範囲で取り組みます。
- IT部門と協力する: システムからのデータ取得など、専門的なサポートが必要な場合は、遠慮なくIT部門に相談しましょう。現場の課題意識や目標を共有することで、協力が得やすくなります。
- 住民や職員の声を大切にする: 数字だけでは見えない、利用者の生の声は非常に貴重な情報源です。アンケートだけでなく、日々の窓口での会話や、職員同士の informal な意見交換も参考にしましょう。
まとめ
GovTech導入は、システムが稼働してからが本当のスタートと言えます。導入効果をしっかりと測定し、「見える化」することで、現場の努力は報われ、さらなる業務改善や住民サービス向上への道が開かれます。
現場担当者の皆様にとって、日々の業務の中でデータ収集や分析を行うことは、決して簡単なことではないかもしれません。しかし、今回ご紹介したような具体的なKPIに注目し、無理のない範囲でステップを踏むことで、システム導入の効果を客観的に捉え、それを関係者と共有することが可能になります。
GovTech導入による変化を適切に評価し、その結果を次のアクションに繋げていくこと。このプロセスこそが、持続的なデジタル化推進と、より良い住民サービスの実現に向けた確かな一歩となるでしょう。