GovTech導入における「要件定義」:現場担当者がIT部門・ベンダーに希望を伝えるコツ
GovTechの導入を検討する際、多くの現場担当者の方が「要件定義」という言葉に難しさを感じることがあるかもしれません。要件定義は、これから作るシステムに「何を求めるのか」を明確にする非常に大切なプロセスです。
特に、日常業務でシステムに触れている現場の皆さまの意見は、使いやすく効果的なシステムを開発するために不可欠です。しかし、IT部門や外部のベンダーとのコミュニケーションに戸惑いを感じたり、「専門的な話についていけるか不安」「どう伝えたら理解してもらえるのか」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
この記事では、GovTech導入における要件定義フェーズで、現場担当者がどのように関わり、IT部門やベンダーに自らの「希望」や「必要なこと」を効果的に伝えるか、その具体的なコツを分かりやすくご説明します。
なぜ要件定義に現場担当者の声が必要なのか?
要件定義とは、システム開発の最初の段階で行われる作業で、「新しいシステムで何を実現したいのか」「どのような機能が必要なのか」「どのような課題を解決したいのか」といったシステムに対する要求事項を明確にし、文書化することです。
このプロセスに現場担当者の皆さまが積極的に関わることが非常に重要です。なぜなら、日々の業務を最も理解しているのは現場の皆さまだからです。窓口での住民の方とのやり取り、書類の処理手順、どのような情報が必要か、どのような点で困っているかなど、業務の「リアル」を知っているのは現場に他なりません。
現場の視点が抜けたまま要件定義が進むと、完成したシステムが実際の業務にフィットせず、かえって非効率になってしまったり、住民サービス向上に繋がらないという結果になりかねません。現場の皆さまの具体的な声が、システムの使いやすさや効果を大きく左右するのです。
IT部門やベンダーとの連携で直面しやすい課題
要件定義の場でIT部門や外部のシステムベンダーと話をする際、次のような課題を感じることがあるかもしれません。
- 専門用語の壁: ITに関する専門用語が多く、話されている内容がよく理解できない。
- 業務理解のギャップ: ベンダーが必ずしも自治体の特定業務(例: 市民課窓口業務)に詳しいわけではないため、現状の課題や業務フローを十分に理解してもらえないと感じる。
- 伝え方の難しさ: 頭の中にある漠然とした希望や不満を、システム仕様として具体的に伝えるのが難しい。
- 遠慮や躊躇: 専門家であるIT部門やベンダーに対して、自分の意見を言って良いのか、あるいは自分の要望が技術的に実現可能なのか分からず、遠慮してしまう。
これらの課題は多くの自治体や企業で共通して見られるものです。大切なのは、こうした状況は自然なことであり、事前に準備と少しのコツを知っておけば、スムーズなコミュニケーションが可能になるということです。
要件を効果的に伝えるための現場担当者の準備
IT部門やベンダーとの打ち合わせに臨む前に、現場担当者として次のような準備をしておくことがおすすめです。
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現状の業務を「見える化」する:
- 日々の業務がどのような流れで行われているか、誰がどのような作業をしているかを整理してみましょう。簡単なフロー図や箇条書きでも構いません。
- システムが関わる部分だけでなく、紙でのやり取りや住民の方とのコミュニケーションなども含めて、全体像を把握します。
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業務上の「困りごと」「非効率な点」を具体的にリストアップする:
- 「書類を探すのに時間がかかる」「同じ情報を複数のシステムに手入力している」「住民の方を長くお待たせしてしまう手続きがある」など、具体的な課題や不満点を書き出します。
- 「なぜ困るのか」「それが業務や住民サービスにどのような影響を与えているか」といった背景も加えておくと、課題の重要性が伝わりやすくなります。
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新しいシステムで「どうなりたいか」をイメージする:
- リストアップした困りごとが、新しいシステムでどのように解決されてほしいかを考えます。
- 「〇〇という情報がすぐに検索できるようになりたい」「△△の手続きの待ち時間を半分にしたい」「□□の書類作成を自動化したい」など、具体的な目標や希望を整理します。
- 理想とする新しい業務の流れをイメージしてみることも有効です。
IT部門・ベンダーへの「伝え方のコツ」
準備ができたら、いよいよIT部門やベンダーとのコミュニケーションです。効果的に要望を伝えるためのコツをいくつかご紹介します。
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専門用語を恐れず、「分からないことは質問する」姿勢を持つ:
- 打ち合わせ中に分からないIT用語が出てきたら、その場で「今の〇〇というのは、具体的にどういう意味ですか?」と遠慮なく質問しましょう。
- 専門家であるIT部門やベンダーは、分かりやすく説明する責任があります。質問は理解を深めるための大切なステップです。
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「〇〇という機能が欲しい」ではなく、「〇〇という課題を解決するために、こういうことができるようにしたい」と伝える:
- 単に機能名(例: ワークフロー機能)を伝えるだけでなく、それが「何のために必要なのか」「現状のどのような課題を解決するのか」という目的や背景を具体的に説明します。
- 「現在の紙での申請書回覧に時間がかかり、進捗状況も分からないため、システム上で申請書の承認状況が確認できるようになり、迅速な判断ができるようにしたい」のように、現状の課題と理想の状態を結びつけて話すと、ベンダーは必要な機能をより正確に理解できます。
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具体的な「ユースケース(利用場面)」を説明する:
- 「住民の方が窓口に来て、引越し手続きをする際に、このような順番で情報が確認できて、このボタンを押すと次の画面に進み、この書類が自動で印刷される、といった流れにしたい」のように、実際の業務の流れや特定の場面を例にとって説明すると非常に分かりやすいです。
- 「この場面で、システムにこういう情報が表示されると助かる」「この入力項目は必須にしてほしい」など、具体的な操作や画面のイメージを伝えましょう。可能であれば、手書きでも良いので画面イメージを書いてみるのも効果的です。
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「もし、これができなかったらどうなりますか?」と代替案や影響を確認する:
- 要望に対して技術的な制約などから難しいと言われた場合、すぐに諦めるのではなく、「代替案として、どのような方法がありますか?」「この機能が実現できない場合、私たちの業務にどのような影響が出ますか?」といった質問をしてみましょう。
- これにより、ベンダーも別の解決策を提案したり、要望の優先順位を理解する手助けになります。
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コミュニケーション履歴を残し、認識のずれがないか確認する:
- 打ち合わせでの決定事項や確認事項は、議事録として残すように依頼しましょう。
- 議事録は必ず確認し、自分の理解や要望が正確に反映されているかチェックします。もし認識のずれがあれば、早めに指摘し、訂正してもらうことが重要です。
要件定義への積極的な関与が成功を左右する
GovTech導入の成功は、システムそのものの性能だけでなく、それが実際の業務にどれだけフィットし、現場の皆さまや住民の方にとって使いやすいものになるかにかかっています。そして、そのためには要件定義フェーズでの現場担当者の皆さまの積極的な関与が不可欠です。
IT部門やベンダーは、現場のリアルな声を聞きたいと思っています。専門知識がないことを気にせず、日々の業務で感じている課題や「こうだったら良いのに」という希望を、準備した内容に基づいて具体的に、そして臆することなく伝えてみてください。
要件定義は、新しいシステムであなたの業務をより良くし、住民サービスを向上させるための最初の、そして最も重要な一歩です。この記事でご紹介したコツが、皆さまのGovTech導入プロジェクトを成功に導く一助となれば幸いです。