まずは小さく始めてみるGovTech:現場の課題解決とスモールスタートのヒント
GovTech(ガブテック)と聞くと、自治体全体の大きなシステム刷新や、多額の費用がかかるプロジェクトを想像し、難しそうだと感じていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。特に、日々の窓口業務や住民対応で手一杯の現場担当者にとって、大規模なシステム導入は負担が大きいように感じられるかもしれません。
しかし、全てのGovTech導入が大規模なプロジェクトである必要はありません。現場の特定の課題を解決するために、まずは「小さく始めてみる」、いわゆる「スモールスタート」というアプローチが非常に有効な場合があります。この記事では、GovTechをスモールスタートで導入することのメリットと、具体的な進め方について、現場担当者の視点から分かりやすく解説します。
なぜGovTechは「小さく始めてみる」のが良いのか?
大規模なシステム導入には、予算や準備に時間と労力がかかります。また、新しいシステムへの変更は、現場の職員だけでなく、住民の方々にとっても大きな変化となるため、導入後の混乱や戸惑いを懸念されることもあるでしょう。
そこで有効なのがスモールスタートです。特定の業務や一部の部署に限定してGovTechツールを導入し、その効果や課題を検証しながら進めていく方法です。このアプローチには、いくつかの大きなメリットがあります。
- リスクを抑えられる: 小さな規模での導入であれば、もし想定通りに進まなかった場合でも、影響を最小限に抑えることができます。大きな投資をする前に、そのGovTechが現場の課題解決に本当に役立つのかを見極めることができます。
- コストを抑えられる: 全体的なシステム刷新に比べて、初期費用や運用コストを抑えられる傾向があります。限られた予算の中でも、まず第一歩を踏み出しやすくなります。
- 現場の負担が少ない: 全職員が一度に新しいシステムに対応する必要がないため、現場の混乱を避けられます。関わる職員も限定されるため、研修や操作習熟の負担も分散できます。
- 効果を実感しやすい: 特定の課題解決に焦点を当てるため、導入効果が現場で感じられやすいです。例えば、「窓口の待ち時間が〇分短縮された」「この手続きに関する住民からの問い合わせが〇割減った」など、具体的な成果が見えやすいと、職員のモチベーション向上にもつながります。
- PDCAサイクルを回しやすい: 小規模で効果を検証し、課題が見つかれば改善して再度試すというサイクル(Plan-Do-Check-Action)を迅速に回せます。これにより、より現場の状況に合ったシステムに育てていくことが可能です。
現場の課題を解決する「小さなGovTech」の具体例
では、「小さく始められるGovTech」とは具体的にどのようなものがあるでしょうか?市民課の窓口業務などを例に考えてみましょう。
- オンライン窓口予約システム: 窓口の予約をインターネット上でできるようにするシステムです。特定の窓口業務(例えば、住民票発行や印鑑証明書の発行など、来庁目的が比較的明確な手続き)に限定して導入できます。住民は来庁前に予約できるため待ち時間が減り、自治体側は窓口の混雑緩和や職員の対応負荷軽減につながります。
- FAQチャットボット: よくある質問(FAQ)に対して自動で回答するチャットボットをウェブサイトやLINEなどに設置します。特に問い合わせの多い手続きに関するQ&Aに特化して導入することで、住民は知りたい情報を簡単に入手でき、職員は電話や窓口での問い合わせ対応にかかる時間を削減できます。
- オンライン申請書作成支援ツール: 複雑な申請書類の作成をオンラインで支援するツールです。特定の申請(例えば、引っ越し関連の手続きなど)に絞って導入し、住民が自宅で申請書を作成できるようサポートします。これにより、窓口での申請書記入の時間が短縮され、書類の不備も減らせます。
これらはあくまで一例ですが、現場の「困った」を解決するために、ピンポイントで役立つGovTechソリューションはたくさんあります。
スモールスタートでGovTechを導入する進め方
スモールスタートでGovTech導入を進める際の基本的なステップをご紹介します。現場担当者として、IT部門と連携しながらどのように関わっていくかのヒントになれば幸いです。
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現場の課題を明確にする:
- 「何が困っているのか」「どこを改善したいのか」を具体的に洗い出すことが第一歩です。窓口での待ち時間、特定の問い合わせが多い、申請書への記入ミスが多いなど、日々の業務で感じている課題を職員間で共有しましょう。
- 可能であれば、住民の方々から寄せられる声やアンケート結果なども参考に、客観的な視点も加えるとより良いでしょう。
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課題解決に合うGovTechを探す:
- 洗い出した課題を解決できそうな「小さなGovTech」を探します。前述のような具体的なツールだけでなく、他の自治体の事例なども参考になります。
- この段階で、IT部門や導入を検討しているベンダーに相談してみるのも良いでしょう。現場の課題を伝え、「このような困りごとを解決できるGovTechはありますか?」と具体的に質問してみましょう。専門的な知識がなくても、課題をしっかり伝えることが重要です。
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小さな範囲で試してみる(PoCやパイロット導入):
- 特定の業務、特定の期間、特定の部署など、範囲を限定して実際のGovTechツールを試用してみます。これをPoC(概念実証)やパイロット導入と呼びます。
- 例えば、オンライン予約システムであれば、まずは特定の曜日や時間帯、あるいは特定の手続きのみを対象に予約を受け付けてみるなどが考えられます。
- この段階で、現場の職員が実際にツールを使ってみることが非常に重要です。IT部門やベンダーと連携し、テストに参加したり、操作感や住民の反応についてフィードバックを伝えたりしましょう。
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効果と課題を検証する:
- 試用期間中に、想定していた効果が出ているか、新たな課題はないかなどを検証します。「待ち時間が実際に何分減ったか」「チャットボットの利用者はどれくらいか」「職員の業務負担は減ったか」「住民の方の反応はどうか」などをデータや現場の感覚に基づいて確認します。
- 現場で感じた良い点、改善が必要な点を具体的にまとめて、IT部門やベンダーに報告しましょう。
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次のステップを検討する:
- 検証結果を踏まえ、そのGovTechを本格的に導入するか、範囲を広げるか、あるいは別の方法を検討するかを判断します。
- もし期待通りの効果が出なかったり、大きな課題が見つかったりしたとしても、それは失敗ではありません。小さな投資とリスクで、そのGovTechが自らの自治体や部署には合わないという貴重な学びを得られたと考えることができます。
現場担当者がスモールスタートで意識したいこと
スモールスタートを成功させるためには、現場担当者の皆さんの力が不可欠です。
- 積極的に関わる: IT部門やベンダー任せにせず、「これは自分たちの業務を良くするためのものだ」という意識を持って積極的に関わりましょう。
- 率直な意見を伝える: 使ってみた感想、感じた効果、使いづらい点などを、遠慮なくIT部門やベンダーに伝えましょう。現場のリアルな声が、システム改善や今後の展開にとって最も重要です。
- 変化を楽しむ姿勢: 新しいものに触れることへの好奇心や、より良い業務環境を創り出すことへの前向きな気持ちを持つことも大切です。
GovTechのスモールスタートは、現場の小さな「困った」から始まり、自治体全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)への大きな一歩となる可能性を秘めています。まずは皆さんの部署で、どんな「小さなGovTech」なら始められそうか、周りの職員の方々と話し合ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。