窓口業務の具体的な課題から探すGovTech導入の糸口
日々の自治体窓口業務では、住民サービスの向上や業務効率化を目指す中で、さまざまな課題に直面されていることと思います。長い待ち時間、煩雑な手続き、紙でのやり取りによる非効率性、そして職員の負担増。これらの課題に対し、GovTech(ガブテック)は有効な解決策となり得ます。
しかし、「GovTech」と聞いても、具体的にどのようなシステムが、私たちの窓口業務のどの課題に役立つのか、イメージが湧きにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、窓口業務でよく見られる具体的な課題を取り上げ、それぞれの課題に対してどのようなGovTechソリューションが考えられるのか、その導入の糸口を分かりやすく解説します。
窓口業務によくある具体的な課題
まず、皆さまが日々の業務で感じている「困ったこと」を具体的に洗い出すことから始めましょう。いくつかの代表的な課題を以下に挙げます。
- 課題1:住民の待ち時間が長い 特に開庁時間直後やお昼休み、月末などは窓口が混雑し、住民の方が長時間待たれることがあります。これは住民満足度低下に直結する課題です。
- 課題2:申請手続きが複雑で分かりにくい 申請書類の種類が多く、記入方法も専門的で、住民の方が何度も窓口に問い合わせたり、書き直しのために来庁したりするケースが見られます。
- 課題3:紙での申請や手続きが多く、管理が大変 紙の書類でのやり取りや保管が主だと、書類の紛失リスク、保管場所の確保、過去情報の検索の非効率性などが生じます。
- 課題4:職員による定型的な入力作業や確認作業が多い 窓口で受け付けた申請内容をシステムに入力したり、複数の書類を突合して確認したりといった、時間のかかる定型作業が職員の負担となっています。
- 課題5:窓口が物理的に遠い、来庁する時間がない住民がいる 高齢者や障がいのある方、仕事や育児で忙しい方など、地理的または時間的な制約から窓口に来ることが難しい住民もいます。
これらの課題は、自治体規模や地域特性によって異なりますが、多くの窓口で共通して見られるものです。
具体的な課題に対するGovTechソリューションの例
では、これらの具体的な課題に対し、どのようなGovTechソリューションが解決策となり得るのでしょうか。いくつかの例をご紹介します。
課題1:住民の待ち時間が長い → オンライン予約システム、整理券システム、AIチャットボット
- オンライン予約システム: 住民が事前にインターネットで来庁日時や手続き内容を予約できるようにします。これにより、来庁者が集中する時間帯を分散させ、待ち時間の短縮につながります。職員側も予約状況を把握でき、準備がしやすくなります。
- 整理券システム(デジタル版含む): 窓口に発券機を設置し、番号で呼び出すシステムです。最近では、スマートフォンで整理券の発券や待ち状況の確認ができるデジタル整理券システムもあり、待合スペース以外での「ながら待ち」を可能にし、体感的な待ち時間を軽減します。
- AIチャットボット: よくある問い合わせに自動で回答することで、簡単な質問のために窓口に来る必要をなくしたり、来庁前の疑問を解消したりできます。これにより、窓口への来庁者数を減らす効果が期待できます。
課題2:申請手続きが複雑で分かりにくい → オンライン申請システム、手続きナビゲーションツール
- オンライン申請システム: インターネット上で申請手続きを完結できるようにするシステムです。入力フォームの分かりやすさや、必要な添付書類のリスト表示、入力内容の自動チェック機能などにより、手続きの誤りを減らし、住民の手間を大幅に削減します。職員側も申請書類のチェック作業を効率化できます。
- 手続きナビゲーションツール: ウェブサイト上で、いくつかの質問に答えることで、どの手続きが必要か、どのような書類が必要かを分かりやすく案内するシステムです。手続き全体像を把握しやすくなり、住民の不安を軽減します。
課題3:紙での申請や手続きが多く、管理が大変 → 文書管理システム、ペーパーレス化ツール
- 文書管理システム: 紙の書類をスキャンして電子データとして一元管理するシステムです。キーワード検索で必要な情報をすぐに見つけられるようになり、ファイリングや保管場所の手間が不要になります。また、電子化された文書は複数部署で同時に参照できるため、情報共有もスムーズになります。
- ペーパーレス化ツール: 会議資料や内部申請などを電子化し、紙の使用を減らす取り組み全般を指します。GovTechシステム導入と合わせて、関連する内部業務もペーパーレス化を進めることで、業務全体の効率化が図れます。
課題4:職員による定型的な入力作業や確認作業が多い → RPA、システム連携
- RPA(Robotic Process Automation): パソコン上で行う定型的で繰り返し行う作業(データの入力、コピー&ペースト、システム間の情報転記など)を、ソフトウェアロボットに自動実行させる仕組みです。これにより、職員はより創造的で住民サービスの質向上に繋がる業務に時間を割けるようになります。
- システム連携: 異なるシステム間でデータを自動的に連携させることです。例えば、オンライン申請システムで受け付けた申請データを、内部の基幹システムや他の関連システムに自動で反映させることで、職員による手入力やデータ移行の手間とそれに伴うミスをなくします。
課題5:窓口が物理的に遠い、来庁する時間がない住民がいる → オンライン申請システム、リモート相談システム
- オンライン申請システム: 課題2でも挙げましたが、来庁することなく自宅などから手続きができるため、時間的・地理的な制約のある住民にとって非常に有効です。
- リモート相談システム: ビデオ通話などを活用して、自宅にいながら職員に相談できる仕組みです。窓口での対面相談に近い形で、住民の疑問や不安を解消できます。
課題からソリューションを選ぶ際のポイント
「私たちの窓口には、どの課題が最も当てはまるだろうか?」と考えてみることから、GovTech導入の検討は始まります。そして、課題に対するソリューションを考える際には、以下の点を意識することが重要です。
- 最も解決したい「核となる課題」は何か: 複数の課題がある中で、最も切実で、解決による効果が大きいと思われる課題に焦点を当てます。例えば、「待ち時間が長いこと」が最大の課題であれば、予約システムや整理券システムが優先候補となるでしょう。
- 現場の業務フローにどう組み込めるか: 新しいシステムが、現在の窓口業務の流れに無理なく組み込めるか、あるいは業務フロー自体を見直す必要があるかを検討します。
- 住民にとっての利用しやすさ(UI/UX): 導入するシステムは、職員だけでなく、主に住民が利用する可能性が高いものです。操作が簡単で分かりやすいデザインであるか(UI/UX)が、利用促進の鍵となります。
- 他の既存システムとの連携は可能か: 現在利用している他の自治体システムとデータ連携ができるか確認することは非常に重要です。連携ができれば、データの二重入力の手間やミスをなくし、さらなる効率化が期待できます。
- 「小さく始めて大きく育てる」考え方: 全ての課題を一気に解決しようとするのではなく、一つの課題に焦点を当てたスモールスタートで導入し、効果を検証しながら徐々に適用範囲を広げていくアプローチも有効です。
まとめ:課題発見から始まるGovTech導入への道
GovTech導入は、単に新しいシステムを入れることではありません。日々の窓口業務で見つかる具体的な「困った」を丁寧に掘り下げ、その課題を解決するために最も適したデジタル技術は何かを考え、導入・活用していくプロセスです。
現場の皆さまが直面する課題は、GovTech導入検討の貴重な出発点となります。まずは、部署内で「どんな課題があるか」「どうなったら嬉しいか」を話し合ってみることから始めてはいかがでしょうか。その声こそが、住民サービスの向上と業務効率化を実現するGovTech導入の確かな糸口となるはずです。