GovTech導入後の現場の『困った』を減らす:標準作業手順書(SOP)の作成・活用術
GovTech導入でなぜ標準作業手順書(SOP)が重要になるのか
新しいシステム、いわゆるGovTechが自治体業務に導入されると、日々の業務の進め方が変わることがあります。窓口対応の方法、書類の処理手順、システムへの入力方法など、今まで慣れ親しんだやり方から新しい手順への変更は、現場の職員にとって時に戸惑いや不安を伴うものです。「この場合はどうするんだっけ?」「システムがエラーを出したけど、どうすればいいんだろう?」といった『困った』は、新しいシステムに慣れる過程で避けられないかもしれません。
こうした『困った』を減らし、職員誰もがスムーズに新しいシステムを使って業務を進められるようにするために非常に役立つのが、「標準作業手順書(SOP:Standard Operating Procedure)」です。SOPは、特定の業務を遂行するための詳細な手順を定めたものです。GovTech導入においては、このSOPを新システムに対応した内容に更新したり、新たに作成したりすることが、現場のシステム定着と業務効率化に大きく貢献します。
本記事では、GovTech導入後に現場の『困った』を減らし、システムを円滑に運用するために必要なSOPの作成と活用のポイントについて、現場担当者の皆様の視点から分かりやすく解説します。
標準作業手順書(SOP)とは?なぜ必要なのか?
標準作業手順書(SOP)とは、特定の業務を正確かつ効率的に行うために定められた、詳細な手順やルールを記した文書のことです。食品製造業や医薬品業界などで品質管理のために広く用いられていますが、どのような業務においても、手順を標準化し共有するために有効です。
GovTech導入においてSOPが必要な理由はいくつかあります。
- 業務の質を均一に保つため: 担当者によって手順が異なると、ミスの発生リスクが高まったり、提供する住民サービスの質にばらつきが出たりします。SOPがあれば、誰が行っても同じ品質で業務を遂行できます。
- 職員の教育・研修を効率化するため: 新しいシステム操作を含む業務を、新任職員や異動してきた職員に教える際に、SOPが分かりやすいマニュアル代わりになります。教える側の負担も減り、教えられる側もスムーズに手順を理解できます。
- 『困った』時の対応を明確にするため: 想定されるシステムエラーや特殊なケースでの対応方法をSOPに盛り込んでおけば、問題発生時にすぐに参照でき、落ち着いて対応できます。
- 業務改善の基盤とするため: SOPで現在の業務手順が可視化されていれば、「この手順は無駄ではないか」「もっと効率化できるのではないか」といった改善点を検討しやすくなります。
GovTech導入に伴うSOP作成・更新の具体的なステップ
GovTech導入に合わせてSOPを作成・更新する際の、現場担当者の皆様が関わる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:現状の業務手順を正確に把握する
新しいシステムが導入される前に、まずは現在の窓口業務が「実際どのように行われているか」を正確に把握することから始めます。
- 業務フローの洗い出し: 住民が窓口に来てから、どのような手続きを経て、最終的に何が完了するのか、一連の流れを書き出します。紙でのやり取り、システムへの入力、関係部署への回送など、細かく分けます。
- 職員間の手順の確認: 同じ業務でも、担当者によって少しずつやり方が違うことがあります。それぞれのやり方を確認し、非効率な点やリスクの高い点がないか検討します。
- 現行SOP(もしあれば)の見直し: 既存のSOPがある場合は、それが現状に即しているか、使われていない手順はないかなどを確認します。
この段階では、「あるべき姿」ではなく、「今、現場がどう動いているか」を正確に捉えることが重要です。IT部門やベンダーに現状業務を説明する際にも役立ちます。
ステップ2:新システムでの業務フローを理解し定義する
導入されるGovTechシステムを使うと、業務の手順がどのように変わるのかを理解し、新しい業務フローを定義します。
- システム担当者やベンダーからの情報収集: 新システムの操作方法や、システムが想定している業務フローについて、IT部門やベンダーから詳細な説明を受けます。操作研修なども積極的に活用します。
- 新しい業務フローの検討: ステップ1で洗い出した現状の業務フローと、新システムの機能を踏まえ、「新しい業務はどのような流れになるか」を検討し、決定します。システム操作が必要な箇所や、紙でのやり取りが不要になる箇所などを明確にします。
- イレギュラー対応の確認: 想定されるイレギュラーなケース(例:必要書類が揃わない、システムが一時停止する、特殊な申請内容など)について、新しいシステムではどのように対応するのか、IT部門やベンダーと確認し、対応手順を定めます。
新しい業務フローを定義する際は、現場の視点から「本当にこの手順で住民サービスが滞らないか」「現場の負担はどうか」といった観点も忘れずに検討し、必要であればIT部門やベンダーに調整を依頼することも大切です。
ステップ3:新しいSOPを作成・更新する
ステップ2で定めた新しい業務フローに基づき、SOPの作成または更新を行います。
- 構成の決定: SOPを読む職員が知りたい情報にすぐにアクセスできるよう、分かりやすい構成を考えます。業務ごとの章立て、一般的な手順、イレギュラー対応、よくある質問、システムエラー対応などを区分けすると良いでしょう。
- 具体的な手順の記述: 定義した新しい業務フローに沿って、具体的な操作手順や判断基準を記述します。「いつ、誰が、何を、どのように行うのか」を明確に示します。
- システム操作手順: システム画面のキャプチャ(画面の画像)を挿入し、どのボタンを押すのか、どこに何を入力するのかなどを矢印や枠で分かりやすく示します。文章だけでは伝わりにくい操作も、視覚的に理解しやすくなります。
- 判断基準: 「Aの場合はこの手順、Bの場合は別の手順」といった判断が必要な箇所は、フロー図を取り入れたり、条件分岐を明確に記述したりします。
- 使用する書類やツール: その手順で使用する書類名(様式番号など)や、システム以外のツール(スキャナー、プリンターなど)についても明記します。
- 専門用語の排除と平易な言葉遣い: ITに関する専門用語や、システム特有の略語などは避け、日頃現場で使っている言葉や、誰にでも理解できる平易な言葉で記述します。やむを得ず専門用語を使う場合は、簡単な注釈をつけます。
- 「なぜ」を補足する: 手順だけでなく、「なぜこの操作が必要なのか」「この情報を入力することで次にどう繋がるのか」といった背景や目的を補足すると、職員の理解が深まり、主体的な業務遂行に繋がります。
- 問い合わせ先の明記: SOPを見ても分からないことや、SOPに載っていないケースが発生した場合の問い合わせ先(例:システム担当者、上席者など)を明記しておくと、職員が安心して業務に取り組めます。
ステップ4:現場でのテストとレビュー
作成したSOPを実際に現場で使ってみて、分かりにくい点や修正が必要な点がないかを確認します。
- 職員による試行: SOPを見ながら、実際にシステムを使って業務を行う試行を実施します。複数の職員に試してもらうことで、様々な視点からの意見が集まります。
- フィードバックの収集: 試行した職員から、「この説明が分かりにくい」「この手順が抜けている」「この表現は誤解を招く」といった具体的なフィードバックを収集します。
- 修正と改善: 収集したフィードバックに基づき、SOPの内容を修正・改善します。システム操作に変更があった場合も、この段階で反映させます。
このステップは、SOPが「机上の空論」で終わらず、実際に現場で役立つものになるために非常に重要です。
ステップ5:周知・共有と継続的な更新
完成したSOPを現場の全職員に周知し、いつでも参照できる環境を整備します。また、システムや業務内容に変更があった場合は、SOPも遅滞なく更新することが不可欠です。
- アクセスしやすい保管場所: 印刷物として配布するだけでなく、庁内イントラネットや共有フォルダなど、職員がいつでも簡単にアクセスできる場所に保管します。
- 変更履歴の管理: SOPを更新した際は、いつ、どこが変更されたかを明確に記録し、周知します。
- 定期的な見直し: 半年に一度、または一年に一度など、定期的にSOPの内容が現状に即しているか見直す機会を設けることも有効です。
SOP作成・活用で得られる現場のメリット
GovTech導入に合わせたSOPの作成と適切な活用は、現場の皆様に多くのメリットをもたらします。
- 業務に対する自信の向上: 手順が明確になることで、「これで合っているのか」という不安が減り、自信を持って業務に取り組めるようになります。
- 新人教育・異動者研修の負担軽減: 教える側はSOPを基に効率的に指導でき、教えられる側は自分のペースで手順を確認できます。
- ヒューマンエラーの削減: 定められた手順に沿って業務を進めることで、確認漏れや操作ミスといったヒューマンエラーを減らすことができます。
- 問題発生時の迅速な対応: 想定されるトラブルやイレギュラー対応がSOPに記載されていれば、慌てずに落ち着いて対応できるようになります。
- 働き方の柔軟性向上: 誰でも同じように業務を進められるSOPがあれば、担当者が不在の場合でも他の職員がスムーズに引き継いだり、テレワークなど場所にとらわれない働き方に対応しやすくなったりします。
IT部門やベンダーとの連携のポイント
SOP作成・更新において、IT部門やシステムベンダーとの連携は欠かせません。
- システム仕様の正確な情報の入手: システムの操作方法、データの流れ、エラーメッセージの意味、推奨される手順など、SOP作成に必要な技術的な情報はIT部門やベンダーから正確に入手します。
- 不明点の質問と解消: システムの機能や操作について不明な点があれば、遠慮せずに質問し、完全に理解してからSOPに反映させます。
- 現場の状況の共有: 現場で実際にシステムを使ってみて感じた「使いにくい点」や「想定外のケース」があれば、IT部門やベンダーにフィードバックします。これにより、システム側の改善や、より実情に合ったSOP作成に繋がります。
SOP作成は、現場の視点とシステム側の情報の融合が重要です。IT部門やベンダーはシステムの専門家、現場職員は業務の専門家として、互いの知見を尊重し合いながら進めることが成功の鍵となります。
まとめ
GovTechシステムの導入は、住民サービスの向上や業務効率化といった大きなメリットをもたらしますが、その効果を最大限に引き出すためには、現場でのスムーズなシステム活用が不可欠です。標準作業手順書(SOP)は、新しいシステムでの業務手順を明確にし、職員の皆様が自信を持って日々の業務に取り組めるようにするための、非常に強力なツールとなります。
SOPの作成や更新は手間のかかる作業に思えるかもしれませんが、一度しっかり整備すれば、職員教育の効率化、ヒューマンエラーの削減、そして何より現場の『困った』を減らし、安心して業務に集中できる環境づくりに大きく貢献します。
ぜひ、本記事でご紹介したステップやポイントを参考に、GovTech導入を機に、現場で本当に役立つSOPを作成・活用してみてください。これが、新しいシステムを「使いこなす」ための重要な一歩となり、さらなる業務改善へと繋がるはずです。