GovTech導入後のシステム運用:現場職員のための困りごと解決ガイド
はじめに:GovTech導入、その後の「困った」に備える
自治体や企業の窓口業務、申請手続きの効率化や住民サービス向上を目指して、GovTechシステムの導入が進められています。システム導入は大きな一歩ですが、実際に運用が始まってから、「操作方法が分からない」「システムがエラーを起こした」「住民からの問い合わせにどう答えるべきか」といった、現場ならではの「困りごと」に直面することもあるかもしれません。
新しいシステムの運用には、事前の準備だけでなく、実際に使いながら発生する疑問やトラブルに適切に対応していく視点が重要です。この記事では、GovTech導入後に現場の職員が直面しうるシステム運用の「困りごと」の例を挙げ、それらに対する基本的な考え方や具体的な対応方法、そして日頃からできる準備についてご紹介します。
システム運用の現場で起こりうる「困りごと」の例
GovTechシステムの種類や導入形態によって内容は異なりますが、運用開始後に現場の職員が経験する可能性のある代表的な困りごとをいくつかご紹介します。
- 操作方法に関する疑問:
- 特定の機能の使い方がマニュアルを見ても理解できない。
- 想定していた手順で作業が完了しない。
- 新しい機能が追加されたが、説明がない。
- システム上の問題:
- システムが頻繁にエラーメッセージを表示する。
- データの登録や更新が正しく反映されない。
- システム応答が極端に遅い、または固まってしまう。
- 印刷ができない、書類が正しく出力されない。
- 住民からの問い合わせ:
- オンライン申請で住民がエラーになった、操作方法が分からないといった問い合わせが来る。
- 窓口でシステムに関する複雑な質問をされたが、答えられない。
- 業務への影響:
- 従来のやり方と異なり、かえって手間が増えたと感じる作業がある。
- 他の部署や連携システムとの間で情報共有がスムーズに行えない。
- 緊急時の対応がシステムでカバーされていない。
これらの困りごとは、決して珍しいことではありません。新しいシステムにはつきものであり、一つ一つ丁寧に対応していくことが、システムを現場に定着させ、導入効果を最大限に引き出すために不可欠です。
困りごと発生時の基本的な対応ステップ
システム運用中に困りごとが発生した場合、落ち着いて以下のステップで対応することをおすすめします。
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状況を正確に把握する:
- いつ、どのような操作をしたときに問題が発生したか。
- 具体的にどのようなエラーメッセージが表示されたか(可能であればスクリーンショットを撮る)。
- 自分以外の他の職員も同じ問題に直面しているか。
- 問題が発生する前に、いつもと違う操作や設定変更を行わなかったか。
- 住民からの問い合わせの場合は、住民が具体的にどのような状況で困っているのか、どの画面でエラーが出ているのかなどを詳しく聞き取ります。
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自己解決を試みる(簡単な場合):
- まずはシステムのマニュアルやFAQを確認します。マニュアルはシステム導入時に提供されているはずです。
- よくあるエラーであれば、マニュアルに記載されている対処法で解決できる可能性があります。
- システムを再起動してみることで問題が解消することもあります。
- 操作方法であれば、研修資料を見返したり、他の職員に尋ねてみたりします。
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解決しない場合は速やかに報告・相談する:
- 自己解決が難しい場合や、業務に支障が出る場合は、速やかに組織内の担当部署(多くの場合、IT部門や情報システム担当部署)またはシステムベンダーのサポート窓口に連絡します。
- この際、ステップ1で把握した状況を具体的に、正確に伝えます。いつ、どこで、何をしたときに、どうなったのか。エラーメッセージの内容など、具体的な情報が多いほど、解決に繋がりやすくなります。
- 可能であれば、問題を再現できる手順を伝えると、担当部署やベンダーが原因究明しやすくなります。
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対応状況を確認し、情報を共有する:
- 報告・相談した問題に対して、どのような対応が進められているかを確認します。
- 問題が解決したら、その原因や解決策について、関係する他の職員にも情報を共有します。同様の困りごとが再発した場合に役立ちます。
よくある「困りごと」への具体的な対応策
いくつかの典型的な困りごとについて、より具体的な対応策を考えてみましょう。
操作方法が分からない場合
新しいシステムは、慣れるまで時間がかかるものです。操作に迷ったり、特定の機能の使い方が分からなかったりすることは当然起こりえます。
- 対応策:
- まずはマニュアルを確認する: システム導入時に提供された操作マニュアル、機能一覧、FAQなどを改めて確認します。検索機能を使ってキーワードで調べることも有効です。
- 部署内で確認する: 同じ部署内で、システムに詳しい職員がいれば質問してみましょう。先行して使いこなしている職員がいる場合、実践的なコツを教えてもらえることもあります。
- 担当部署に問い合わせる: マニュアルや同僚に聞いても解決しない場合は、IT部門などの担当部署に問い合わせます。可能であれば、質問内容を具体的にまとめておくとスムーズです。「〇〇の手続きで、△△のボタンを押しても画面が進まない」のように、状況を明確に伝えましょう。
- ベンダーのサポート窓口を利用する: 担当部署の指示に従い、直接ベンダーのサポート窓口に問い合わせる場合もあります。問い合わせ方法(電話、メール、専用フォームなど)や受付時間を確認しておきましょう。
システムがエラーになる、動作が遅い場合
システム上の技術的な問題は、現場で解決できることは限られます。最も重要なのは、状況を正確に記録し、適切な部署に速やかに報告することです。
- 対応策:
- エラーメッセージを確認・記録する: 表示されたエラーメッセージの内容を正確にメモするか、可能であればスクリーンショットを撮影します。エラーコードが含まれている場合、それも控えておきます。
- いつ発生したか、再現性はあるかを確認する: 特定の操作をしたときに毎回発生するのか、たまにしか発生しないのかを確認します。
- 業務への影響度を判断する: そのエラーや動作遅延によって、窓口業務や他の業務がどれくらい滞るのかを判断します。影響が大きい場合は、その旨を報告時に伝えます。
- IT部門やベンダーに報告する: 状況と影響度を添えて、速やかにIT部門やベンダーサポートに報告します。技術的な調査や対応は専門家が行いますので、現場としては正確な情報提供に努めます。
住民からの問い合わせが多い場合
GovTechの多くは住民も利用するため、システムに関する問い合わせが住民から寄せられることも増えるでしょう。
- 対応策:
- よくある質問(FAQ)を整備・活用する: 住民からの問い合わせ内容を記録し、頻度の高いものについてはFAQを作成します。作成したFAQは、自治体のウェブサイトや窓口に掲示するなどして、住民が参照できるようにします。職員もFAQを参照することで、統一した回答ができます。
- 住民向けの案内を分かりやすくする: システムの操作方法やエラー時の対処法について、住民向けに分かりやすい操作ガイドや動画などを作成・案内することも有効です。
- 問い合わせ窓口を明確にする: システムに関する住民からの問い合わせは、どこに連絡すればよいか(例:システムヘルプデスク、特定の課の窓口、ベンダーのコールセンターなど)を住民に明確に案内します。窓口の職員も、住民からのシステムに関する問い合わせに対して、適切な窓口を案内できるように周知徹底します。
日頃からできる準備とIT部門・ベンダーとの連携
運用段階の困りごとにスムーズに対応するためには、日頃からの準備と、IT部門やベンダーとの良好な連携が欠かせません。
- マニュアルや資料に目を通す習慣をつける: 導入時に配布されたマニュアルや研修資料を、いざというときにすぐに参照できるよう、整理しておきましょう。定期的に目を通すことで、理解を深めることができます。
- 積極的に操作に慣れる: 研修時だけでなく、日々の業務の中で積極的にシステムを利用し、操作に慣れておくことが重要です。分からない点はその場で確認し、疑問を解消していくように心がけましょう。
- 疑問点や改善点をメモする習慣をつける: 「〇〇の操作が分かりにくい」「この画面遷移は非効率的だ」といった疑問や改善点に気づいたら、すぐにメモしておきましょう。これが後々、FAQ作成やシステム改善の貴重な情報となります。
- IT部門やベンダーとのコミュニケーションを大切にする: システム運用は、現場、IT部門、ベンダーが連携して行うものです。日頃から担当者とコミュニケーションを取り、信頼関係を築いておくことで、困りごとが発生した際にスムーズな連携が期待できます。定期的な情報交換会や、気軽に相談できる窓口の設置なども有効です。
困りごとを改善につなげる視点
運用中に発生する困りごとは、単なるトラブルとして片付けるのではなく、システムや業務プロセスを改善するための貴重なヒントと捉えることができます。
- 現場の声を記録・集約する: 困りごとや疑問点、改善要望などを現場でしっかりと記録・集約し、定期的にIT部門やベンダーにフィードバックする仕組みを作りましょう。
- フィードバックをシステム改善に反映させる: 集約された現場の声を基に、マニュアルの改訂、FAQの整備、操作研修の見直し、そして可能であればシステムの軽微な改修などを検討・実施します。
- 改善の成果を共有する: 現場からのフィードバックによってどのような改善が行われたのかを、関係者全体に共有することで、現場のモチベーション向上にもつながります。「自分たちの声がシステムを良くしている」という実感を持つことは非常に重要です。
まとめ
GovTechシステムの導入はゴールではなく、住民サービスの向上や業務効率化に向けた新たなスタートラインです。運用段階では、予期せぬ困りごとに直面することもあるかもしれません。しかし、それは決して失敗ではなく、システムを現場に根付かせ、より良いものにしていくための成長の過程です。
この記事でご紹介した基本的な対応ステップや日頃からの準備、そしてIT部門やベンダーとの連携を実践することで、多くの困りごとは解決に向かうはずです。現場の職員一人ひとりが、システム運用の「困りごと解決ガイド」として、積極的に情報収集し、問題に向き合い、改善提案に関わっていくことが、GovTech導入を真に成功させる鍵となります。運用を通じて得られる経験は、今後のさらなるデジタル化推進においても必ず役立つことでしょう。