GovTech導入、他部署との連携はこう進める:現場担当者のための調整と協力のヒント
GovTechを導入し、住民サービスの向上や業務効率化を目指す取り組みは、多くの自治体や企業で進められています。特に窓口業務に関わる現場の皆さまは、日々の業務の中で、申請手続きの煩雑さや住民の待ち時間といった課題を強く感じていらっしゃることでしょう。
GovTechソリューションの中には、市民課だけでなく、税務課や福祉課、国民健康保険課など、複数の部署が関わる業務プロセス全体を効率化・デジタル化することで、より大きな効果を発揮するものがあります。例えば、住民からのオンライン申請を受け付けるシステムや、庁内の共通基盤となるデジタルサービスプラットフォームなどがこれにあたります。
しかし、このような複数部署にまたがるGovTech導入プロジェクトでは、関係部署との連携や調整が非常に重要であり、同時に難しさも伴います。それぞれの部署には独自の業務プロセスや優先事項があるため、全体の足並みを揃えることが不可欠です。
この記事では、GovTech導入において他部署との連携が必要となった際に、現場担当者の皆さまがどのように調整を進め、協力を得ていくかのヒントをご紹介します。
なぜGovTech導入に他部署連携が必要なのか?
GovTechの導入は、単に特定の部署の業務をデジタル化するだけでなく、行政サービス全体の質を高めることを目指しています。この目的を達成するためには、以下のような理由から他部署との連携が不可欠となる場合があります。
- 住民サービスの向上: 住民にとって、申請手続きが複数の部署にまたがることは珍しくありません。例えば、引越しに伴う手続きでは、市民課、税務課、国民健康保険課など、複数の窓口を回る必要がある場合があります。これらの手続きをGovTechによって統合的にデジタル化することで、住民の手間を大幅に削減できます。そのためには、関係する部署が連携し、共通のシステムや情報共有の仕組みを構築する必要があります。
- 業務プロセスの最適化: 一つの手続きが複数の部署を経由している場合、部署間の情報伝達の遅れや重複した入力作業などが非効率の原因となっていることがあります。GovTechを活用して業務プロセス全体を見直すためには、関係部署それぞれの業務を理解し、連携して新しいプロセスを設計する必要があります。
- 共通基盤の活用: オンライン申請システムや認証基盤など、複数の部署で共通して利用できるGovTechソリューションを導入する場合、全ての利用部署がその目的や利用方法について共通認識を持ち、協力して運用していく体制が必要です。
他部署連携が必要となるGovTechソリューションの例
- オンライン申請システム: 住民からの様々な申請・届出をオンラインで受け付け、関係部署へ振り分けるシステム。市民課だけでなく、子育て関連の手続きであれば福祉課、税証明であれば税務課など、幅広い部署が関わります。
- 共通プラットフォーム/データ連携基盤: 庁内の様々な業務システム間でデータを連携させたり、共通の機能を複数の部署が利用したりするための基盤。部署ごとのシステムが連携することで、住民情報の共有などがスムーズになり、住民サービスの向上や職員の入力負担軽減に繋がります。
- 証明書コンビニ交付サービス: 住民票の写しや印鑑登録証明書などをコンビニエンスストアで取得できるようにするサービス。市民課だけでなく、戸籍情報などを扱う部署との連携が必要になります。
連携を始める前の準備:目的の明確化と関係部署の洗い出し
GovTech導入プロジェクトを始める前に、まず「なぜこのシステムを導入するのか」というプロジェクトの根本的な目的を明確にすることが重要です。そして、その目的達成のために、どの部署との連携が必要になるかを洗い出します。
例えば、「引越しに伴う手続きをワンストップ化する」という目的であれば、市民課だけでなく、税務課、国民健康保険課、子育て支援課など、関連する部署全てをリストアップします。
次に、リストアップした部署に対して、このプロジェクトの目的や概要を伝え、協力を依頼するための準備を行います。
ステップ1:関係部署との情報共有と課題のヒアリング
連携の第一歩は、情報共有と相互理解です。プロジェクトの目的や期待される効果について、関係部署の担当者へ丁寧に説明を行います。その上で、各部署が現在抱えている業務上の課題や、GovTech導入によって解決したい点、あるいは懸念している点などを丁寧にヒアリングします。
このヒアリングを通じて、各部署の現状の業務プロセスや使用しているシステム、住民対応の状況などを把握することができます。お互いの立場や状況を理解することが、その後のスムーズな連携に繋がります。
ステップ2:共通認識の醸成と協力体制の構築
ヒアリングを通じて得られた情報を共有し、プロジェクトの目的達成が各部署にとってどのようなメリットをもたらすのか(例:職員の負担軽減、住民からの問い合わせ減少など)を具体的に伝えます。
そして、「このGovTech導入は、庁内全体で住民サービスを向上させるための取り組みであり、皆様の協力が不可欠です」といったメッセージを伝え、共通の目標に向かって協力し合う体制を築くことを目指します。関係部署間で定期的な情報交換の場を設けることも有効です。
ステップ3:要件のすり合わせと調整
GovTechシステムに求める機能や仕様(いわゆる「要件」)は、各部署の業務によって異なります。ステップ1でヒアリングした内容をもとに、関係部署のそれぞれの要望を整理し、プロジェクト全体としてどのような機能を優先すべきかを話し合います。
意見が分かれることもあるかもしれませんが、プロジェクトの目的を常に念頭に置き、住民サービス向上や業務効率化という観点から、どの要件が最も重要かを議論します。調整が難しい場合は、IT部門やベンダーの意見も参考にしながら、現実的な落としどころを探ります。
IT部門やベンダーにこれらの要件を伝える際は、専門用語を避け、現場の業務や住民への影響という視点から具体的に説明することが重要です。例えば、「この処理に時間がかかると住民の待ち時間が増える」「この情報がシステムに入力されないと次の手続きに進めない」のように、実際の困りごとや業務の流れに沿って説明すると、相手も理解しやすくなります。
ステップ4:導入プロセスへの巻き込み
GovTechシステムの設計、開発、テストといった各段階で、関係部署の担当者にも関わってもらうようにします。例えば、システム仕様に関する意見交換会や、実際にシステムを操作してみるテスト(利用者受入テストなど)への参加を依頼します。
現場担当者が導入プロセスに関わることで、システムへの理解が深まり、運用開始後のスムーズな利用に繋がります。また、「自分たちの意見がシステムに反映されている」と感じることで、プロジェクトへの主体性が増し、協力的な姿勢を維持しやすくなります。
連携をスムーズに進めるためのヒント
- 担当者間のこまめなコミュニケーション: プロジェクトの進捗状況や課題について、関係部署の担当者と定期的に情報交換を行います。メールだけでなく、短い電話やチャットなども活用し、気軽に話せる関係性を築くことが大切です。
- 情報共有の場の設定: 定例会議や情報共有会などを設け、関係者全員が同じ情報を共有できる機会を作ります。これにより、誤解を防ぎ、認識のずれを修正することができます。
- 小さな成功事例の共有: プロジェクトの初期段階や特定の部署で小さな成果が出たら、それを他の部署にも共有します。「こんなに便利になった」「住民から好評だった」といった具体的な話は、他の部署のモチベーション向上に繋がります。
- IT部門との連携: 他部署との調整に行き詰まった場合や、技術的な課題に直面した場合は、積極的にIT部門に相談します。IT部門はシステム全体の知識やベンダーとの連携経験があるため、解決策を見つける手助けをしてくれます。
まとめ:他部署連携の重要性と継続的な取り組み
GovTech導入における他部署連携は、単なる情報交換にとどまらず、共通の目標に向かって協力し合い、互いの業務や立場を理解しようとするプロセスです。これは、 GovTechの導入効果を最大化し、住民サービスの抜本的な向上や職員の負担軽減を実現するために欠かせません。
導入プロジェクト期間だけでなく、システム運用開始後も、定期的な情報交換や意見交換を通じて、関係部署との良好な関係を維持し、システムの継続的な改善に取り組んでいくことが重要です。他部署との連携を強固にすることで、より多くの住民や職員にとって価値のあるGovTechの実現に繋がります。