GovTechベンダー選定の進め方:現場の視点とIT部門との連携
GovTech導入におけるベンダー選定の重要性
GovTech(ガブテック)システムの導入は、自治体の業務効率化や住民サービス向上に大きく貢献する可能性を秘めています。しかし、数多く存在するシステムベンダーの中から、自らの自治体に最適なパートナーを選ぶことは容易ではありません。特に現場担当者の方々は、「システム選びはIT部門の仕事ではないか」「どうやってベンダーを評価すればよいのか分からない」といった疑問や不安を抱えているかもしれません。
しかし、実際にシステムを利用するのは現場の職員であり、その効果を享受するのは住民の皆様です。そのため、ベンダー選定のプロセスに現場の視点を取り入れることは、導入を成功させる上で非常に重要です。この記事では、GovTechベンダー選定の基本的な流れと、現場担当者としてどのように関わり、IT部門と連携していけばよいのかを解説します。
ベンダー選定の基本的な流れと現場の役割
GovTechベンダーの選定は、一般的にいくつかのステップを経て行われます。それぞれのステップで、現場担当者としてどのような役割を担うべきかを見ていきましょう。
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情報収集・課題の明確化:
- ステップ: どのようなGovTechソリューションが存在するのか、どのような課題を解決できるのかといった情報を収集します。
- 現場の役割: 日々の業務で感じている非効率な点、住民からの声で改善が必要だと感じる点など、具体的な課題を整理し、明確に言語化します。これにより、求めるべきシステムの機能や要件の方向性が見えてきます。
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要件定義:
- ステップ: 導入するシステムに求める機能や性能、セキュリティ要件などを具体的に定義します。
- 現場の役割: 現場の業務プロセスに基づき、「どのような作業を効率化したいか」「どのような情報が必要か」「どのような操作性が必要か」といった具体的な要望をIT部門や関係部署に伝えます。この段階で現場の声を反映させることが、導入後のミスマッチを防ぐために不可欠です。
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ベンダー候補の絞り込み:
- ステップ: 要件に合致する可能性のあるベンダーをリストアップし、情報提供依頼(RFI)や提案依頼(RFP)などを通じて、候補を絞り込みます。
- 現場の役割: RFIやRFPの内容を確認し、現場の視点から漏れている点がないか、自らの課題解決に繋がりそうかといった観点で意見を求められることがあります。過去の導入実績や提供されているソリューションが、現場の抱える具体的な課題(例:高齢者でも使いやすい操作画面など)に対応しているかなどをチェックする視点も重要です。
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提案内容の評価:
- ステップ: ベンダーから提出された提案書やデモンストレーションを評価し、最も適切なベンダーを選定します。
- 現場の役割: 提案されたシステムの操作性、画面の分かりやすさ、現場の業務フローとの整合性、サポート体制などを、実際の利用者としての視点で評価します。デモンストレーションに参加し、実際に操作してみることは非常に有効です。不明点や懸念点があれば、積極的に質問をします。
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契約:
- ステップ: 選定したベンダーと契約を締結します。
- 現場の役割: 契約内容の確認は主に法務部門やIT部門が行いますが、SLA(サービス品質保証)の内容や、導入後のサポートに関する事項が、現場の業務に影響しないかといった観点で意見を求められることがあります。
現場の視点でチェックすべきポイント
ベンダーからの提案を評価する際、現場担当者として特に注目すべき点を挙げます。
- 操作性・利便性: 職員が日常的に使用するため、直感的で分かりやすい操作画面であるか、必要な情報にすぐにアクセスできるかなど、現場の職員がストレスなく使えるかが重要です。可能であれば、試用版やデモ環境で実際に操作してみることを推奨します。
- 導入実績と事例: 類似の自治体や、同じような課題を抱える組織への導入実績があるか確認します。特に、導入後の効果や現場の評価に関する具体的な事例は参考になります。
- サポート体制: 導入後のトラブル発生時や操作方法の不明点に対し、どのようなサポートが受けられるか確認します。問い合わせ方法(電話、メール、チャットなど)、対応時間、対応スピードなどが、現場の業務に支障をきたさない体制になっているかが重要です。職員向けの研修制度なども含めて確認します。
- 既存システムとの連携: 既に利用している他のシステム(住民情報システム、基幹システムなど)との連携が可能か、または容易かを確認します。これにより、情報の二重入力の手間を省いたり、業務プロセス全体の効率を高めたりすることができます。
- 拡張性・柔軟性: 将来的に業務内容や要件が変更になった場合でも、システムを拡張したり、設定を変更したりしやすいかという視点も長期的な利用においては重要です。
- セキュリティ: 住民の個人情報など機密情報を扱うため、どのようなセキュリティ対策が講じられているか確認します。これはIT部門が主導しますが、現場としても情報の取り扱いに関する懸念事項があれば、連携して確認することが大切です。
IT部門とのスムーズな連携
ベンダー選定プロセスにおいて、現場担当者とIT部門との連携は不可欠です。お互いの立場や専門性を尊重し、効果的なコミュニケーションを図りましょう。
- 現場の課題と要望の具体化: IT部門は技術的な側面やシステム全体の整合性を重視しますが、現場の抱える具体的な課題やシステムへの要望を最もよく理解しているのは現場担当者です。「〇〇の作業に時間がかかっている」「〇〇のような機能があれば住民の方も分かりやすい」など、具体的な事例を交えて伝えることで、IT部門も現場のニーズを正確に把握しやすくなります。
- IT部門の視点の理解: IT部門はセキュリティ、既存システムとの連携、コスト、運用・保守のしやすさなど、現場とは異なる視点を持っています。IT部門がなぜ特定の要件や懸念を示すのかを理解しようと努めることも重要です。
- 合同での評価: ベンダーからの説明やデモンストレーションには、現場担当者とIT部門が合同で参加することを提案します。それぞれの視点からの質問や意見交換をその場で行うことで、多角的にベンダーを評価できます。
- 定期的な情報共有: 選定プロセスの各段階で、IT部門から進捗状況や検討内容の説明を受け、現場からも意見を伝える機会を定期的に設けます。
まとめ:現場の「使う」視点を活かす
GovTech導入の成功は、システム選定の段階から始まっています。特にベンダー選定においては、技術的な専門知識を持つIT部門の知見はもちろん必要ですが、実際にシステムを利用し、日々の業務を行う現場担当者の視点も同様に、いやそれ以上に重要です。
「このシステムは本当に現場の助けになるのか」「住民の方は迷わず使えるだろうか」といった、利用者としての率直な感覚や具体的な業務に基づいた視点が、最適なベンダー、ひいては自治体の課題を本当に解決できるシステムを選び出す鍵となります。IT部門と密に連携し、現場の「使う」視点を積極的に発信していくことが、GovTech導入を成功に導く第一歩となるでしょう。